中国で、発電電力量の約6割を占める石炭火力の抑制などによる電力不足が深刻化し、経済活動や国民生活への影響が広がっている。全土の7~8割(電力消費量ベース)で、地方政府などから電力使用制限に関する通知が発令されており、このうち半分程度で実際に計画停電などが実施されているもよう。専門家は石炭火力の抑制について、国内炭のスポット価格の高騰や電力需要の増加を主な要因に挙げている。

 電力使用制限の通知は、9月初旬に広東省などで始まり、対象地域が広がっている。製鉄や肥料生産といったエネルギー多消費産業には操業制限が課され、特に電力不足が深刻な東北部の一部では強制停電を実施しているケースもある。

9割占める国内産石炭が高騰

 中国では、石炭火力燃料の9割以上を国内炭で賄っている。輸入炭は1割程度で、豪州炭は全体の2%程度しかなく、既にインドネシア産などで代替している。このため、中国とオーストラリアの紛争で、豪州炭の輸入を禁止したことが電力不足の要因になっているという一部報道は誤っている可能性がある。

 国内炭について、発電事業者は一般的に、年間使用量の9割程度を年間契約で確保しており、残りの約1割と想定を超える電力需要に対応する分は、スポット取引で調達する。このスポット価格が9月下旬時点で、年間契約価格の3倍程度にまで高騰している。

 発電事業者には、契約量を上回る需要に対する供給義務はないため、価格が高騰する中でスポット調達してまで発電する意欲に乏しい。海外電力調査会の顧立強研究員は、「電力消費の伸び分はスポットで調達しないといけないから、発電事業者は損をしてしまう。ほとんどの発電事業者は赤字が続いている」と指摘する。

 スポット価格の高騰要因について、顧氏は「ベースにあるのは温暖化対策で、中央から地方への化石エネルギーの使用抑制指示。国の目標達成に向け、石炭火力の稼働を減らし、石炭の生産量も減少する中で、需要が増大してじわじわ上昇してきた」と説明。さらに、9~10月は石炭輸送の大動脈となっている鉄道のメンテナンス時期で、「石炭運搬量が減ることも影響している」という。

コロナ禍反動で電力消費量も急増

 一方、2021年1~8月の国内電力消費量は、前年同期比13.8%増を記録し、20年の同3.1%増と比べて大きく増加。20年は新型コロナウイルス感染拡大で生産活動が低迷したが、21年は回復による反動で伸びている。顧氏は、「電力需要の伸びをうまく吸収できていない」と分析する。

 電力不足の解消に向け、経済産業省・資源エネルギー庁に当たる国家能源局は、大手炭鉱業者と主要な発電事業者の間に入り、石炭供給の調整に乗り出した。運輸分野にも職員を派遣し、運送能力を高める調整を進めている。

 また、国家電網は「全力を尽くし、電力供給を守る」という強い声明を発表。水力発電で供給に余力のある地域から、省をまたいで融通するなどの取り組みを進め、計画停電の実施方法も工夫している。ただ、「自前の電源は揚水などの調整電源くらいしかなく、打つ手は限られている」(顧氏)。

 今後の見通しについて、顧氏は「10月1日からの大型連休で産業用の需要が減り、その間に行政の調整がうまくいけば、需給状況は10月中旬頃から少しずつ改善していくだろう」と予測。一方、スポットの高騰が続く場合、「電力使用制限の範囲は減るが、発電事業者の赤字が続くため、完全に回復するのは難しいだろう」と懸念を示している。

電気新聞2021年10月4日