ブックカフェの壁に林さんのアクセサリーが飾ってある。説明を受けないと電線素材だと分からないほど

 電線アクセサリーを通して電力の安定供給に思いをはせる――。東京・北品川のブックカフェで手作りアクセサリーが展示販売されている。素材は電線の端材。都内の企業に勤める林由佳さんが生み出した作品だ。

 外国語学部出身の事務系ながら電気工事士の資格試験に合格。実技試験の練習で使った電線素材に魅了され、アクセサリー作りに取り組み始めた。その作品には電力の安定供給が重要だとの思いを多くの人に伝えたいとの気持ちが込められている。

 北品川の商店街にブックカフェ「カイドー・ブックス・アンド・コーヒー」がある。古書店も兼ねた店内に入ると、木目調の壁に飾ってある林由佳さんのアクセサリーが目に入る。イヤリングやピアスに加え、しおりとキーホルダーも並ぶ。一見しただけでは電線素材だと分からない。

 「電気工事士試験のルールに従って作っていますよ」

 そう林さんに教えられてよく見ると、被覆の中に入っている銅線の数が作品ごとに異なっていた。「これまでに4個ほど売れました」と林さんは照れ笑いするが、販売することが目的ではない。電線素材に目を向けてもらうことで電力供給の大切さに触れるきっかけをつくりたいのだ。

金融会社社員として新電力に関わる

 リース・金融会社に勤める林さんは2017年に新電力関連の新規事業に取り組む部署に異動。自治体が主導する地域新電力の立ち上げ支援や新電力への投融資などに取り組んだ。

 新電力の仕事をこなす中で、電力業界から転職してきた先輩社員の話を聞くうちに安定供給の大切さが身にしみた。電力業界の関係者には「供給責任という精神が刻み込まれている」とも感じ、技術面やシステム改革などを学ぶうちに「電気は当たり前に存在するものではない」と気付いた。

 立ち上げ支援をしていた関係で、新電力側の立場で大手電力や電気工事会社の社員らと話す機会もあった。だが技術用語が分からず四苦八苦。「電力供給の仕組みを理解した上で技術系の人たちと話をしなければ」と考え、電気工事士の資格試験に挑戦。2種に加えて1種も合格した。

 試験勉強に取り組んだことが電線素材に出会うきっかけとなった。実技試験の練習で使う電線素材をホームセンターで手に取ったときに「かわいい」と感じ、愛着が芽生えたリングスリーブや電線の端材などを使ったアクセサリーの製作を19年から始めたからだ。

電力安定供給の大切さ、伝えたい

 「安定供給の大切さを身近に感じていたい」ため、当初は自分用に作っていた。そうこうするうちに、電線素材のアクセサリーを通して「電気を届ける仕事を他業種の方たちにも伝えられる」との思いに至った。

 転機が訪れたのは今年の6月。自作のイヤリングを耳に着けてブックカフェを訪ねたら、マスターの佐藤亮太さんが興味を示したのだ。安定供給に思いをはせて電線素材のアクセサリーを制作していると伝えたら、展示販売コーナーに置いてもらえることになった。

林さんの作品が展示販売される北品川のブックカフェ「カイドー・ブックス・アンド・コーヒー」店内

 佐藤さんも電力供給や地球環境に関心を持ち始めていたこともあり、アクセサリーの周囲に「脱炭素」など電力やエネルギーのキーワードを解説する展示も添えることにした。「電力供給をリスペクトするアクセサリーの展示販売」という形式にしたという。

 電線素材アクセサリーの展示販売をきっかけにして「電力の安定供給に少しでも関心を持ってくれる人が増えるとうれしい」と林さん。自らが身に付けた電気事業に関する知識や安定供給の重要性について、アクセサリーを通して多くの人に伝えていきたい考えだ。

 林さんのアクセサリーは10月中旬まで「カイドー・ブックス・アンド・コーヒー」で展示販売する予定。

電気新聞2021年9月28日