海外では廃止済み原子力発電所を調相機に転用した例も(写真は米イリノイ州のザイオン原子力発電所)

 再生可能エネルギーが急拡大する中、慣性力に特化した供給と、それに適した同期調相機に注目が高まっている。現在の系統周波数は大型回転発電機の慣性力によって保たれるが、今後、太陽光など慣性力を有しない再生可能エネ電源の連系が増加すると十分な確保が難しくなる。そのため英国では系統運用者が慣性力を調達する動きが出ている。米国やドイツでは廃止済み原子力発電所を調相機に転用した例もある。日本でも次期エネルギー基本計画案で調相機の有効性に言及しており、検討が加速しそうだ。

 自然災害や発電設備トラブルで系統への入力が急に失われると周波数は低下する方向で作用する。このとき、連系する大型回転発電機の慣性力が働くことで系統全体の周波数が一定に保たれる。慣性力はタービンなど重量物と一体となり回ることから提供される、回転発電機ならではの特徴だ。

 そのため今後、脱炭素の進展などに伴い非回転系の再生可能エネ電源の割合が高まると周波数安定が難しくなる。こうした課題は各国に共通しており、英国の送電事業者、ナショナルグリッドESOは2020年に世界で初めて入札により石炭火力5基分の慣性力を6年契約で調達した。電力の「副産物」として供給されてきた慣性力に価値を付与する試みとして注目される。

 慣性力の経済価値が認められるとき、供給源として注目されるのが同期調相機だ。次期エネルギー基本計画案でも、慣性力確保へ「疑似慣性機能などを備えるインバーターの導入」と並んで「同期調相機などの設置」が具体施策として掲げられている。

 国内の電力関係者によると、日本では慣性力提供に十分な質量を備え、既に系統につながる廃止原子力、火力発電所の設備転用が有望という。海外の先例として、米国では1998年に廃止されたザイオン原子力発電所(イリノイ州、PWR、104万キロワット×2基)が転用され、11年間利用された。ドイツではビブリス原子力発電所A号機(PWR、122万5千キロワット)が2011年に転用された例もある。

 課題となるのは慣性力に対する経済評価だ。英国のように脱炭素や系統安定への貢献から価値を認め、事業者が投資しやすい環境を整備することが鍵となりそうだ。

慣性力と同期調相機、トラブル時復元力担う

 同期調相機は系統の電圧制御や力率改善を主な目的とした設備。無負荷で系統に接続することで無効電力の供給・吸収を図る。事故で供給力が失われた場合には瞬時に重量物が回転し続ける「慣性力」が作用し、周波数の低下を防ぐ。いわば「トラブル時の復元力」を提供する役割も担う。構造や役割は、発電に寄与しないことを除き同期発電機とよく似る。逆に言えば火力などの発電機も慣性力供給に寄与している。かつては変電所などに設置されたがその後、経済性などに優れるコンデンサーが取って代わった。

電気新聞2021年8月20日