航空機への給電ケーブルは、ざらついた路面で繰り返し使用するため、耐摩耗性が求められる

 空港で羽を休める航空機。その機体に電気を送るケーブルを開発し、国内でシェアを拡大した電線メーカーがある。福岡県久留米市に本社を置く大電(豊福真一社長)だ。電力用電線の製造で培ったノウハウを生かし、隠れた需要を掘り起こした。

ノウハウ生かし新領域に挑戦
 大電は住友電気工業、九州電力などが出資する老舗の電力・通信機器メーカーだ。電力会社の設備投資抑制に伴い、電線の受注は減少傾向だが、近年は既存領域で培ったノウハウを生かし、産業用ロボット向けケーブルの製造・販売など様々な領域にチャレンジしている。

 そうした取り組みの一環で誕生したヒット商品の一つが「航空機給電ケーブル」。2017年8月の販売開始以降、性能の良さが評価され、羽田、成田をはじめとする国内の主要空港で着実に受注を拡大している。

 航空機給電ケーブルは文字通り、飛行機への電力供給に用いる。航空機はエンジンが回っている飛行中は機内で使う電気を賄えるが、駐機場では外部から電力供給を受け、照明や空調を動かす必要がある。

 そのため国内の主要空港は地下に電力ケーブル網を構築し、立て坑を通じて機体と接続し電気を送っている。小規模の地方空港などでは電源車から供給する例もあるという。その際、一般的に使われているのがゴム製のキャブタイヤケーブルだ。屋外の工事現場などへの電力供給でよく使われる製品だが、空港での使用には大きな悩みがあった。

滑走路の高摩擦抵抗に対応
 高速で着陸する飛行機を素早く停止させるため、空港の舗装は意図的に摩擦抵抗を高めている。そのでこぼこの舗装の上で繰り返し使用することで、ゴムが急速にすり減ってしまうのだ。

 摩耗に強いケーブルをつくれないか――。大電の技術陣はこの課題と向き合い、15年秋からおよそ2年がかりで耐摩耗性を大幅に高めた塩化ビニール(PVC)ケーブルの開発に成功した。

 JIS(日本産業規格)に基づく社内試験ではゴム製の約40倍の高い耐摩耗性を確認できた。柔軟性が高く、現場での取り扱いが容易な点も評価され、航空機への電力供給などを手掛けるエージーピー(東京都大田区、大貫哲也社長)が採用。同社が関わる国内主要空港主要空港で使われるようになった。

年間数千万円稼ぎ出す
 販売開始から4年弱を経て、航空機給電ケーブルは年数千万円規模を稼ぎ出す商材に成長した。大電の足達紳一郎取締役・電線事業部長・九州支店長は「当社は市販材料を組み合わせるだけでなく、自社工場で材料の配合を吟味し、製品を提案できる。航空機向けではその強みが生きた」と話す。

 現場の技術者が知恵と工夫でつかんだ商機。今後、国がカーボンニュートラル政策を推し進め、社会の電化が進めば、電線ケーブルに思いも寄らぬニーズが生まれる可能性もある。新たなチャンスをつかめるか。老舗メーカーの挑戦は続く。

電気新聞2021年8月6日