K4Digital(ケイ・フォー・デジタル)は、関西電力グループのDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを強力に支援する専門機能子会社として2018年8月に設立され、既に100を超えるDXのプロジェクトをサポートしてきた。今回は最終稿として、K4Digitalが最も得意とする人工知能(AI)機械学習モデルの業務適用の実例と、関西電力のDXの今後の展望・広がりについて所感を述べたい。

 K4Digital(K4D)は、関電社内の各部門に寄り添い、一体でデジタル変革を進める戦略機能を持つ。中でも各部門が保有する膨大な量の設備や顧客のデータ、各種統計情報などを徹底活用し、機械学習などを活用した高度なデータアナリティクスの領域を最も得意とする。

 

経験と勘から脱却

 
 K4Dでは既に100を超える関西電力のDXの取り組みをサポートしてきたが、機械学習による様々な予測・分析モデルは、既に関西電力の様々な分野で業務適用が進んでおり、これまでの「ヒトの経験と勘」から、徐々に「データの利活用と分析結果」で判断する時代にシフトしつつある。

 機械学習は、膨大な入力データと予測モデルのアルゴリズムの最適な選択、さらにトレンド補正を加えて学習し続けることで、精度を高めていく。

 一例として分かりやすいのが、日本卸電力取引所(JEPX)の価格予測だ。JEPXの予測モデルは市場にも種々存在するが、指標価格設定のズレは大きな機会損失に直結することから、K4Dでさらなる予測精度向上に取り組み、機械学習を続けることで、週間レンジで平常時誤差の小さい予測モデルを開発。現在、関電グループのKenesで業務に活用している。

 このほか、ITビジネス賞を受賞した太陽光の発電量予測や、燃料プロセスの最適化、大量のデータを駆使しての設備の劣化予測診断、最近ではLNGトレーディング向けのスポット価格の予測など、ここ数年で機械学習モデルの適用領域は格段に広がっている。
 

成果を社外に展開

 
 以上、本稿では数回にわたってK4Dの取り組みを中心に関西電力のDXを紹介してきたが、最後に新たな展開として2点述べておきたい。

 1点目は、設備のO&M領域から始まったDXの取り組みが、それ以外にも着実に広がっていること。今では稟議(りんぎ)や伝票審査など経理・調達、人事の領域など管理間接部門にもDXの波は広がり、競争情報を含むので詳しくは書けないが、営業分野でも、行動予測や施策効果の最適化などマーケティングオートメーションの実装に向けた議論が進む。

 さらにイノベーション活動と相まって、関西電力の新規事業である低速モビリティサービス「iino(イイノ)」や、エビの陸上養殖を行う「海幸ゆきのや」といった新しい事業会社におけるDX技術の活用や、さらには関西電力の今後の重点領域である「ゼロカーボンのリーディングカンパニー」の実現に向け、DXによる脱炭素ビジネスの価値向上の具体化など、今やDXが関与しない領域はないというくらい、全方位に広がっている。

 2点目は、こうしたK4Dを含む関西電力のDXソリューションの取り組みを、自治体や他企業に販売・展開していくための新会社として、「Dshift(ディー・シフト)」社を設立したことである。関西電力のDXは、この外販メニュー化という出口を持つことによって、価値実現のひとつのサイクルを作り上げることになる。


 DXは、その新規性ゆえに技術やヒトへの投資がかさみ、投資対効果を含め何から手をつけてよいかちゅうちょする意見をよく聞くが、こうした関西電力の価値実現のサイクルを通じて、成果の流用や企業間の連携が広がれば、DXの社会実装の一助につながるのではと、大いに期待したい。

 思い起こせば、著者は約3年前のDX戦略委員会の立ち上げからDXに関与してきたが、諸先輩方のご指導を頂きながら、こうしてDXを起点とした関西電力の一連の取り組みに直接的・間接的に携わってこられたことを、心よりありがたく光栄に思う。

電気新聞2021年5月10日

(全5回)