五輪開会式に参加した南條さん。緊急時には後ろにある配電緊急車で現場に駆け付ける

 東京五輪開会式のエッセンシャルワーカーをたたえる演出に、東京電力パワーグリッド(PG)の南條優希さんが抜てきされた。大塚支社大塚制御所配電保守グループに所属する南條さんは26歳、入社5年目の若手で、五輪旗を他の7人のエッセンシャルワーカーとともに運ぶ演出を見事にやり抜いた。南條さんは「パラリンピックを含め大会を最後まで開催できるように電力安定供給に努めていきたい」と気を引き締める。

 エッセンシャルワーカーとして開会式に参加してもらいたいと東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から東京電力ホールディングス(HD)に対して打診があった。東電HDは安定供給を担う東京電力パワーグリッド(PG)の中で、かつ五輪会場が多くあるエリアに絞り選考。さらに若手で現場第一線、立派な立ち振る舞い、物おじしない性格などを考慮した結果、大塚支社大塚制御所配電保守グループに所属する南條優希さんに白羽の矢が立った。

 南條さんに声が掛かったのは6月。勤務中に上司から電話で伝えられ、その場で「わかりました」と返答した。これまで卓球、バスケットボール、ボクシングと様々なスポーツに熱中してきた南條さんだが、五輪と特別な縁があったわけではない。南條さんは「びっくりしたのが一番。時間がたつにつれてうれしさや光栄という思いが湧いてきた」と振り返る。

 開会式の演出内容は一切知らされないまま時が過ぎ、何をするのかを知ったのは開幕の1週間ほど前だったという。当日は普段から身に着けているユニホームに袖を通し、他のエッセンシャルワーカーとともに五輪旗を運んだ。南條さんは進行方向右側の先頭で最も目立つ位置にいた。

 開会式に参加することは周囲の誰にも、家族にさえ知らせなかった。開会式後は、南條さんに気づいた会社の同期などから引っ切りなしに連絡があり、携帯電話が鳴りっぱなしに近い状態に。テレビを見ていた新潟県の実家からも「おめでとう。人生でこんな経験ができて良かったね」とLINEのメッセージが送られてきた。

 南條さんは現在の大塚支社に入社以来勤めている。日頃の業務は文京区と豊島区にある配電設備の保守と緊急対応で、2019年の台風15号の際は夜勤として詰めていた。開会式に臨むに当たり、最も気をつけたことが「配電保守グループの一員としてしっかりした姿を見せること」だった。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で医療関係者などには称賛の声が集まったが、電力インフラを守る電力会社は、ともすれば当たり前のように扱われがちだった。五輪開会式では、エッセンシャルワーカーとしての電力会社がようやく日の目を見た形だ。

 南條さんはそんな状況に「頑張っているところはわかってもらいたい」との思いを吐露しながらも、「電気があって当たり前と皆さんが感じる生活をキープできることが一番大切だと思う」と語る。

 五輪開幕式という歴史的なイベントの参加者となった南條さんだが、そのことに浮かれることはない。「大会が終わってもやるべきことは変わらない。電気を届けることが私の役目なので、変わらず同じ気持ちで取り組んでいきたい」。開会式と変わらぬユニホーム姿で、首都圏の電力安定供給に目を光らせる。

(濱 健一郎)

電気新聞2021年7月29日