2030年のエネルギー政策検討の参考とするため、経済産業省・資源エネルギー庁が6年ぶりに示した「発電別コスト検証結果」が注目を浴びた。太陽光の30年新設コストが原子力を下回ったことが取りざたされるが、政府や各電力が進める既存プラントの再稼働に影響はない。系統安定化費用などに当たる「統合コスト」=メモ参照=も念頭に、各電源の新設コストを適切に捉えるための認識を社会全体で共有していくことが必要だ。
発電別コスト検証は、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のコストが1キロワット時当たりいくらになるかを示したもので、今回は20年時点と30年時点を試算した。各電源のコスト面での特徴を捉える目的で行い、系統への接続費用などは含んでいない。原子力は北海道電力泊発電所3号機など、直近に運開した4プラントのデータを平均値として活用。再生可能エネは、発電事業者からの定期報告の実績データについて中央値を用いた。
加えて国際機関の燃料費見通しや、量産効果などを踏まえた風力・太陽光の価格低下見通しなどを踏まえ、コストを割り出した。原子力の追加的安全対策費を含む資本費、運転維持費、燃料費、社会的費用を合計した総費用を、総発電電力量で割って1キロワット時当たりのLCOE(均等化発電原価)を算出。この結果、30年に原子力は「11円台後半以上」、事業用太陽光は「8円台前半~11円台後半」となった。
ただ、このコストはあくまで30年の新設プラントの建設・運転コストを算出したもので「既存の再稼働炉の発電コスト」ではない。これまでの検証との継続性を保つため、原子力の新設コストを検証したが、そもそも政府は原子力発電所の新増設・リプレースを想定していない。
検討を取りまとめた発電コスト検証ワーキンググループ(WG)の山地憲治座長(地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長)は「再稼働待ちの原子力は最も安い脱炭素電源になる」と指摘する。エネ庁も「今あるものを使うかどうかのコストではないので(既設炉に)影響しない」との見解を示しており、引き続き脱炭素電源として活用することを次期エネルギー基本計画にも盛り込む見通しだ。
また、今回の検証では個別発電コストとは別に、系統安定化費用などを「統合コスト」として整理した。例えば、系統側で全国の電力需給が瞬時に調整される理想的な状況を仮定しても、自然変動電源が総発電電力量の2割程度に達すると、年間1兆900億円が統合コストとしてかかる試算が示された。
加えて、30年時点の系統制約などを前提としたケースも試みた。太陽光、風力、原子力、火力を一定に増やした場合生じる火力効率低下や、揚水活用のコストを各電源に帰属させた。その場合は太陽光や風力のコスト増につながり、調整力を提供するLNG(液化天然ガス)火力は逆にコスト減に、また国内では負荷追従ができない原子力はコスト増の傾向となっている。
発電別コスト検証は燃料費見通しや設備の稼働年数・設備利用率などの前提を変えれば結果が大きく変わる。加えて統合コストの要素もある。エネ庁は「この数字だけをもって高い、安いとは言えない」としており、検討に当たった発電コスト検証WGも「数字の独り歩き」を再三懸念していたが、大手メディアではセンセーショナルに報じられてしまった。前提によって振れる個別発電コストの優劣の議論に終始するのではなく、脱炭素に向かって俯瞰的に見極める姿勢が欠かせない。
◆メモ
統合コスト=太陽光などの出力変動を火力発電所で吸収した際、火力の発電効率の低下、起動・停止回数増などで生じる費用。揚水発電や蓄電池の活用も該当する。世界的に確立した計算手法がなく、各国が模索している。これまで国は、系統安定化費用などとしてきたが、名称を電力システムへの「統合コスト」と定義した。現試算は暫定版で、新たなエネルギーミックス確定後に数値を確定させる。電力システムを維持するためには、個別発電コストに加え、統合コストが必要になる。
電気新聞2021年7月15日