関西電力では、中期経営計画などで掲げているDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを加速させているが、その取り組みを強力に支援する専門機能子会社として2018年8月に設立されたのが、K4Digital(ケイ・フォー・デジタル)である。本稿では、K4Digitalの設立経緯やそのユニークなスキーム、具体的なDX事例などを挙げながら、DXがもたらす効果や意義について、実務に携わる者の所感を述べていきたい。

 今回はK4Digital(K4D)のスキームやその特徴的な活動について紹介したい。前回述べたとおり、K4Dは関西電力のDXをサポートする専門機能集団であり、従業員は現在約100人。3年前の設立時が42人だったことを思うと、成長著しい。K4Dはアクセンチュアとの合弁会社であり、デジタル技術活用に秀でたアクセンチュアの高度専門人材と、関西電力からの出向者がそれぞれ半数ずつで構成される。平均年齢は30代と若く、文字通り若々しく自由闊達(かったつ)に日々活動を続けている。
 

目標金額は年間数十億レベル

 
 特徴的な活動としては2点あり、経済効果に徹底的にこだわることと、DXのケイパビリティー(実行力)を関西電力に内製化すべく、実地で人材を育成することである。

 K4Dは、機能子会社として株主への利益還元を目的としない代わりに、DXによって達成すべき財務成果(NPV換算)の目標金額を、年間数十億円レベルで関西電力と合意し、その完遂を使命とする。

 図はK4Dが手掛けたDX案件の一例だが、こうした一つ一つの取り組みについて、それぞれ販売電力量や発電量の増加、設備コストや委託費の減少など、金銭的価値に換算し得る効果額を設定し、案件ごとの完了報告において主管部と効果額を合意する。こうして積み上げたK4Dの財務成果は、関西電力のDX戦略委員会などにおいて経営層で審議され、K4Dは責任を持って成果の具現化を進めていく。
 

ライバル企業圧倒するスピード

 
 案件の取り組み方も特徴的と言える。K4Dは発電・送配電・営業といった各主管部と寄り添う形で体制をとり、当該部門専門のDX推進部隊として、案件提案から各種モデルの開発、結果確認までを請け負う。PoC(概念検証)は原則3カ月間とし、アジャイルに行う。財務成果を最大化すべく、3カ月間で効果の出ないものは諦め、大きな効果の見込める案件を優先する。変化の速いデジタルの世界で、「ライバル企業を圧倒するスピードでなければ意味が無い」(関西電力・稲田浩二副社長)のである。

 また、関西電力のDX人材育成機関としても、重要な役割を担う。DXに長(た)けた人材の市場調達は容易ではないし、外部委託では肝心の知見やノウハウがいつまでも蓄積されない。

 K4Dの社員は、主管部門と一緒に汗をかきながら、実務を理解し、DXによるバリューアップを議論・提案する。企画案をまとめ、自らツールやプログラミングを行い、結果まで導く。高度なスキルを持つアクセンチュアメンバーと必ずセットで活動し、関西電力出向者への専門技能や知識の移転を実地で行う。しかも、3カ月単位で新しい案件を手掛け、様々なソリューションを経験するため、学習の効果と効率は非常に高い。

 K4Dでは、個人ごとにDXのスキルレベルを設定しており、人材育成の結果(質と量)も成果目標の項目のひとつである。

【用語解説】
 ◆PoC Proof of Conceptの略で、概念実証のこと。新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などを検証することを指す。DX技術を実際の業務に適用するとき、本当にそれが実現できるのか、それによって期待通りの効果が得られるのかを机上の議論で判断するのは困難であり、K4Dで実際に試作プログラム開発やデータ分析を実施し、効果検証を行ってから業務適用を進めている。

電気新聞2021年4月12日