関西電力では、中期経営計画などで掲げているDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを加速させているが、その取り組みを強力に支援する専門機能子会社として2018年に設立されたのが、K4Digital(ケイ・フォー・デジタル)である。本稿では、以降複数回にわたり、K4Dの設立経緯やそのユニークなスキーム、DX取り組みの実例などを挙げながら、DXがもたらす効果や意義について、実務に携わる者の所感を述べていきたい。
 

「くろよん」スピリッツでDXをリード

 
 大阪市中之島の関西電力本店から徒歩数分、JR大阪駅の近くにK4Digital(以下「K4D」)という会社がある。「K4」とは、関西電力のシンボリックな大事業である黒部川第四発電所の「くろよん」に由来しており、K4Dには「くろよんスピリッツで、デジタル変革をリードしていく」という意味が込められている。その名のとおり、関西電力のDXを実行していくための専門機能子会社として2018年に設立され、これまで既に100を超える関西電力のDX取り組みを支援し、また関西電力のデジタル人材育成機関としても機能し始めている。

 関西電力は、電力ガス業界で初となる「攻めのIT経営銘柄」に2年連続選ばれ、IT協会からITビジネス賞を受賞するなど、電力会社の中でもDXに先んじて取り組んできた。今から4年前、当時関西電力の経営企画室にいた著者は、当時の岩根茂樹社長から、欧米を中心としたデジタル変革の動きとその重要性を伺い、さらには「僕がトップに立つから、早急に経営でDXを議論できる場が欲しい」との意向を受け、DX戦略委員会を立ち上げた。2018年6月に第1回を開催し、年度末までの9カ月間で実に15回、社長はじめ多忙の役員幹部に時間を割いて頂き、なぜ今DXなのか、技術革新やその効果、国内外から専門家を招聘(しょうへい)したりして徹底的に議論を行い、関西電力各主管部門のDX計画を策定した。

 これらDX計画などを背景に、DXは関西電力の前中期経営計画では4つの宣言の一つとなり、先日公表された新しい中期経営計画でも、「全てのトランスフォーメーションに対する重要な手段」と位置付けられるに至っている。

 

技術革新で急速に可能性拡大

 
 では、なぜ今DXなのか。当時議論したことは、ここ数年のクラウド化やSaaSの進歩により、「取得できるデータ量が指数関数的に増え」「大量のデータを素早く安価に蓄積でき」「学習・分析ツールの機能と使い勝手が格段に向上」したこと。加えて、プログラミングの汎用性が上がり、高度な情報処理の専門知識がなくても扱いやすくなってきたことも大きい。これにより、社内に眠っている大量のデータからAIやツールを活用して特徴量を抽出し、日常の業務や経営判断に具体的に活用する、すなわちデータ起点によるビジネス変革の可能性が、ここ数年で急速に広がったのである。

 さてDXの意義や効果は理解できたとしても、関西電力の各主管部や一部の社員が、個々にDXを進めるのは非効率に過ぎる。こうしてK4Dは会社という独立した形態をとり、関西電力のDXを一手に担う専門機能集団として設立された。

◆用語解説

◆DX(デジタル・トランスフォーメーション)
 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(経済産業省「DX推進ガイドライン」)。スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱。DXは「Digital Transformation」の略だが、英語では「Trans」から始まる言葉を「X」で表すこともあり、DXと略される。

電気新聞2021年4月5日