電力中央研究所は14日、菅義偉首相が表明した2030年度の温室効果ガス「46%減目標」の実現は困難との研究結果を発表した。電中研がまとめた30年度のエネルギーを起源とする二酸化炭素(CO2)排出量の試算に、政府審議会で議論された粗鋼生産量の見通しなどを反映。30年度の排出量は13年度比40%減の8億4200万トンにとどまるとした。

 電中研は3月に公表した「2030年度までの日本経済・産業・エネルギー需給構造の検討」で、エネルギー起源のCO2排出量は13年度比29.3%減の8億7400万トンとしている。今回、電中研社会経済研究所の間瀬貴之主任研究員らは、政府審議会で議論された「鉄鋼等」「省エネ」「太陽光発電」――の3点に関する長期見通しを踏まえて、46%減目標の実現性を検討した。

 政府の審議会で30年度の全国粗鋼生産量は0.9億トンに下方修正された。電中研では粗鋼などの生産量引き下げによるCO2排出量の変化を感度分析で算出。30年度に4500万トン減少すると推定した。

 一方、次期エネルギー基本計画策定に向けて、長期エネルギー需給見通しの省エネ量を計6千万キロリットル程度まで深掘りすることも検討されている。電中研は6千万キロリットルの省エネ実現を前提に、3月の試算結果からさらに1億5200万トンのCO2削減を見込んだ。

 太陽光は政策強化により、1億1860万キロワット分が設置されると仮定。風力などを含む再生可能エネ全体の発電電力量を3260億キロワット時と推計し、3月の試算から約250億キロワット時増加。30年度の排出量は1500万トン減少すると見込んだ。

 これらの減少分と経済成長で見込まれるCO2排出増、非エネルギー起源の排出量、吸収源対策の数値を反映し、8億4200万トンの数値を導いた。

 試算について電中研は「そもそも政府審議会で示された見直し項目の実現可能性は不透明」と指摘。その上で「(46%減)目標は必ず達成すべきものではない。莫大な費用が必要な対策は避け、費用対効果の優れた対策を実施する効率性が重要」と話す。

 46%減に足りない6%のCO2排出量は8100万トン。仮に、これを開発期間の短い太陽光で達成させようとすると、約1億キロワットを追加して計2億1900万キロワットまで拡大させる必要があると試算した。過去最大の年間導入量の1.5倍ペースで普及させなくては届かない水準だ。だが、開発適地の減少は鮮明になっており、施工能力を踏まえても現実的ではない。

 また、今回の研究ではエネルギー全体の低炭素化に関して、ガス暖房やガス給湯機など需要家に設置されたエンドユース機器が長期間固定化される「ロックイン問題」についても指摘。電化など機器の低炭素化を促す政策も重要とした。

電気新聞2021年5月17日