COVID―19のパンデミックが世界経済に大きな影響を与えている中で、グローバルでの「2050年カーボンニュートラル」に向けた動きは加速している。特に欧州については風力、太陽光などの再生可能エネルギーの発電比率拡大に伴い、デマンド・サイド・フレキシビリティー(DSF)の重要性が注目され、DSFを活用したスタートアップ企業が数多く生まれている。今回は、欧州におけるDSFプロバイダーの収益構造および最新の市場背景について解説していく。
 

収益パターンはコスト回避と収益確保

 
 欧州においては電力システムにおけるDSF活用に関する市場整備が進んでおり、最も整備されている地域ではDSFは5つの用途に活用され既に収益化が実現されている。

 DSF活用による収益パターンは「コスト回避」と「収益獲得」の2つに区分される=図1。


 1つ目の「コスト回避」はDSFを需要家への電力供給におけるコスト削減に活用する方法である。

 この活用先としては託送料金削減(1)と卸電力市場・バランシング市場(2)の2種類がある。これらの活用では電力需給の前日もしくは当日に市場価格に基づきDSF創出の判断を行うことで、託送デマンドの削減および電力調達コスト削減が可能となる。ただし、(2)においては電力卸市場やバランシング市場の時間別価格のボラティリティー(変動性)を活用することにより、コスト削減だけでなく、アービトラージ取引による収益獲得も可能となる。

 一方、2つ目の「収益獲得」はDSF創出について事前に提供先であるTSO(送電事業者)やDSO(配電事業者)と入札のうえ契約し、発動指令に基づきDSFを提供することで収益(インセンティブ)を獲得する方法である。

 この活用先には、アンシラリーサービス(需給調整市場)(3)、容量市場(4)、DSOサービス(5)の3種類がある。

 これらのDSF活用については国によって市場整備の状況が異なるが、現在最も市場整備が進んでいる英国ではDSOサービス(5)への活用が2019年より商用化しており、複数のDSOにおいて配電設備投資抑制もしくは延期のためにDSFが活用されている。
 

競争激化とコロナで、アンシラリーサービスから市場に拡大

 
 現在、5つの活用方法のうち、最も高い金銭的価値でDSFが取引されている活用先は、アンシラリーサービス(3)である。周波数調整に利用する高速での応答が可能な電源(FFR=Firm Frequency Responseなど一次調整力相当)が最も高い。しかしながら、近年アンシラリーサービスにおけるDSFプロバイダー間の競争激化により、高速領域における応札金額は低下しており、アンシラリーサービス単体での収益獲得維持が難しくなってきている=図2。

 一方、COVID―19のパンデミックによる電力需要減少の影響もあり、電力システム全体での再生可能エネルギーの発電比率が拡大し、卸市場についてはネガティブ価格の時間帯が増加しているとともに、バランシング市場価格の高騰も起きている。

 そのため、現在多くのDSFプロバイダーは、従来のアンシラリーサービス(3)に特化して収益化するのではなく、小売事業者との連携、もしくは、自ら小売ライセンスを取得し、アンシラリーサービス(3)だけでなく、卸電力市場・バランシング市場(2)においても収益化を図るビジネスモデルにシフトしている。

 次回以降は、具体的な事例として家庭用需要家のアセットとデジタル技術を統合し、DSFを活用しているスタートアップ企業について紹介していく。

【用語解説】
◆DSF(デマンド・サイド・フレキシビリティー)
生産プロセス・空調設備、蓄電池、自家発電設備などの需要家設備を制御し創出されるフレキシビリティー。アグリゲーターからの発動指令に基づきフレキシビリティーを創出する「インセンティブ型DR」だけでなく、電力料金により誘導する「電気料金型DR」の両方を包含して使われている。

◆アービトラージ取引(裁量取引)
株式、為替、金利、商品(コモディティー)などの市場において、リスクを低減し利ざやを稼ぐために活用する取引手法。同一の価値を持つ商品で一時的な価格差(歪み)が生じた際に、割高な方を売り、割安な方を買い、その後、価格差が減少した時点でそれぞれ反対売買を行うことで利益を獲得する。

電気新聞2021年2月15日