前回はDR資源としてのEV充電を眺めてみた。今回は自宅に太陽光発電を設置した個人の電力プロシューマーとEV充電との関係を考えてみたい。EVに充電するには、EVの蓄電池に空き容量があることが必須だが、平日日中に自宅駐車場に止まっているクルマはその空き容量が少ないことが知られている。一方、EVを通勤に使用していれば、それなりの空き容量が期待できるが、自宅で充電すればそれはやはり夜間が中心となり、化石燃料由来の電力を充電してしまうことになる。この問題をどう解決すればよいのだろうか。
 

卒FITの太陽光の電気。売るよりも自分で使いたい

 
 住宅の屋根上用などの小規模な太陽光発電(PV)の一部は、2019年から再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)の対象から外れるケースが出始めた。このようなケースを卒FITと呼ぶ。卒FITとなっても電力小売り会社や地域の送配電会社が買い取ってはくれるが、その価格は10円/キロワット時程度であって、ユーザーとしての電気の購入価格であるおよそ30円/キロワット時とはかなり乖離(かいり)があることも事実である。

 ならば売ることはやめて、自分で使うことを考えるのが人情である。日中は留守が多い自宅ではあまり使いようがないかもしれないが、勤務先の駐車場に置いた自分の通勤用EVの充電に充てられれば、電力を買う必要はなくなるし、再エネ推進にも一役買えるのであるから一石二鳥だ。では、これが自由にできる環境にあるとかいうと、今のところそうはなっていない。

 自分の電気を自宅以外のよそで使うには、最低二つの要素が必要となる。一つは、系統や他人が所有している充電器の使用料の支払いの基準となる客観的な電力の取引量や時刻の履歴である。もう一つは、その取引に応じて、必要な時刻に所定の電力でEVを充電できる充電システムである。

 技術的な方法としては、これを「自分対自分」の電力取引と見なして、電力取引市場を活用し、約定させれば履歴は残せそうだ。また、その約定結果をブロックチェーンの活用法の一つであるスマートコントラクトによって、IoT化された充電システムに伝えれば、所要のEV充電は実現できる。
 

ブロックチェーン活用の個人間電力取引システムで実験。充電誤差は約1%

 
 そこで、筆者らは、ブロックチェーンを活用して個人間の電力取引市場システムの開発をしているTRENDE(東京都千代田区、妹尾賢俊社長)や、IoTのインフラサービスを提供しているIoT―EX(東京都千代田区、小畑至弘社長兼CEO)などと協業して、この仕組みの試験実装に取り組んだ。この実験は近年隆昌著しい外食産業にあやかって「俺のでんき」とニックネームした。その実験システムの概要を図1に示す。

 実験に使用した取引市場システムは、相手を指定して約定させる機能を有している。この電力取引市場において、自分のPV余剰電力を買い手としての自分自身向けに売り出して、価格によらず約定させる。その結果は勤務先を想定したIoT化された充電器に送られ、約定内容に応じた時間帯、電力量の充電が自分のEVに対して行われる。PVの余剰電力量はなにぶんお天気任せであるので、実験では所与のものとしてデータとして組み込んだ。

 実験結果は十分満足できるものであり、約定量に比べて1%程度の誤差で充電が行われたことを確認した。

 さて、ここで注意すべことがある。電力系統は、英語でプールとも呼ぶ。水泳で使うあのプールである。発電所はこのプールに水を入れる側、需要はそれをくみだして使用する側というイメージで、水位は周波数に相当する=図2


 このプールの概念は電力系統の物理的特性をよく表している。入れる水とくみだす水が同時には同じではないことは明確である。電力系統も同様で、物理現象としては系統に入れる電力と使用する電力が同一ということはない。俺のでんきも、自宅の余剰電力そのものを自分のEVに運んでいるのではなく、余剰相当分の電力を充電しているのである。

【用語解説】
◆ブロックチェーン
分散型台帳技術とも呼ばれる。有名な応用例は、ビットコインなどの暗号資産(以前の名称は仮想通貨)の技術的基盤。一度書き込むと消去できないため、改ざんできないと言われている。

◆スマートコントラクト
ブロックチェーンの応用例の一つ。暗号資産での支払いと連動して、他の手続きを動作させるなどがある。

電気新聞2020年11月30日