電気自動車(EV)がガソリン車に取って代わると言われて久しい。欧州の名だたる完成車メーカーも、時期にバラつきはあるものの、ガソリン車の製造販売を止め、電気自動車の販売に専念するなどと発表している。しかし、街で見掛けるのは、ガソリン車やディーゼル車、そしてハイブリッド車ばかりである。友人たちも電気自動車に関心は示すものの、買ったという者に会ったことがない。ホントに電気自動車は普及するのだろうか。この連載では、ユーザーの視点や、電力システムとの関係など様々な角度から電気自動車を眺めてみたい。

 電気自動車を我々は、よくEV(Electric Vehicle)と呼ぶが、どうもこれは和製英語に近いものらしい。電気自動車の海外での一般的な呼び名は、BEV(Battery Electric Vehicle)が多いようである。BEVは、蓄電池をエネルギー源とすることを明示しており、燃料電池をエネルギー源とするFCV(Fuel Cell Vehicle)と明確に呼び分けている。燃料電池車も概念では、電気自動車の一部なのだ。

 BEVと対照的な位置付けが、皆さまご存じのハイブリッド車で、電動機(モーター)と内燃機関(エンジン)の両方を搭載している。これらは、主力とする動力の構成やメーカーによって呼び名はまちまちである。本連載では、BEVを想定した議論をご紹介することとし、これをEVと表記する。
 

東京から名古屋への出張に使ってみる

 
 さて、EVを利用する際に、まず気になるのが充電である。私の勤務先には研究用の充電器があり、実験の際にはEVの運転や充電もするが、実際の長距離ドライブという経験はなかった。自動車はあまりにも身近な存在のため、EVもアタマで考えがちである。まずは使ってみようと思い、東京から名古屋までの出張をEVで走ってみた。

 今年の2月に東京(新宿)~名古屋(名古屋駅付近)の東名高速+新東名高速の345.8キロメートルを国産のEV(蓄電池容量40キロワット時)で走った。図1がその時の充電行動を表す。練習的な1回目を含め、名古屋に着くまでに3回の充電を行った。

 EVを借りると、充電器にかざすICカードをレンタカー店が貸してくれる。当時、充電代は無料(現在は有料らしい)だった。貸し出されたカードを、高速道路のサービスエリアに設置されている急速充電器にかざすと30分間の充電ができる=図2。2回目、3回目の30分間で充電されたのは、それぞれ16.2キロワット時、14.8キロワット時であった。ガソリン車の燃料計に相当する充電状態の指標をSOC(State of Charge)といい、図1の縦軸はそれを表す。充電中の30分間は、手洗いに寄ったりコーヒーを飲みながらメールでもしていれば、さほど苦にはならない。

 

充電時間を加味すると、平均時速は67キロメートル。平均走行速度が低下

 
 このドライブでの総充電量は35.6キロワット時で、出発・到着時のSOC差なども総合すると、燃費ならぬ電費は約5.8キロメートル/キロワット時となった。2回目、3回目の充電では、15~16キロワット時を30分かけて手に入れている。これで走れる距離は、大ざっぱにいうと約100キロメートルである。高速道路であるから、100キロメートルは約1時間で走ってしまう。この例では、そのためのエネルギー(電力)を30分かけて調達していることとなる。結果として、充電時間を考慮した平均時速は約67キロメートルとなってしまい、平均走行速度の低下が発生することが分かる。

 

輸送効率に難。蓄電池の大容量化などが必要に

 
 大昔の「狭い日本そんなに急いでどこへ行く」の交通標語どおり、むやみにスピードを出すことがいいわけはない。しかし、輸送効率という観点からは、この問題は改善すべき点といえよう。より大出力の充電器や蓄電池の大容量化も改善策となろう。

 百聞は一見に如(し)かずのとおり、今回はアタマで考えているだけではなかなか気付かない例をご紹介した。

【用語解説】
◆FCV 
水素と酸素から電気を作る燃料電池をFuel Cellという。原理的には、EVの蓄電池代わりに燃料電池を置けばFCVをつくることができる。CO2を排出しないことが長所である。

◆SOC 
電池充電率と呼ぶ。スマートフォンの電池残量表示と同じようなものであるが、スマホ同様に表示精度はよくないといわれている。

電気新聞2020年11月9日