関西電力営業本部地域開発グループでは、新しいまち(スマートシティー)づくりに貢献できる新たな事業分野の開拓を検討している。第1回ではスマートシティー実装に必要となるポイントについて、第2回ではMaaSとの関係や持続可能性を高める娯楽性について私見を述べた。今回は、データ利活用分野、特に動的データの柱として期待される人流データについて、活用可能性を中心に議論を深めていきたい。
 

混雑緩和や防災対策など幅広い活用が期待されている

 

 コロナ禍の影響で、郊外住宅地が再評価されるのは理解できるが、都市部の存在自体を否定する論調には違和感がある。確かに東京一極集中は是正すべきである。しかし、実際に混雑が発生しているのは極めて限定された場所、限定された時間であることを考えると、極端な混雑状況さえ回避できれば、都市機能を集約して得られる高機能空間を安全、快適に利用することは十分可能である。そこで、重要となるのが、いつ、どこで混雑状況が発生しているのか、リアルタイムに把握できる人流データである。

 人流データには様々な活用が期待されているが、人流データの利用者としてまず想定されるのが行政である。人流をリアルタイムにデータとして把握できなければ、地域のにぎわいも防災対策も、根拠をもって検討することができない。まさにEBPMの実現に欠かせない都市データである。

 国土交通省が推し進める「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を形成、評価していくためにも、エリアマネジメント組織はもちろん、デベロッパーも、行政と同じ目的で人流データの利用者になる。屋外から屋内へ範囲を広げるとさらに利用シーンが増える。例えば、商業施設や商店街、さらに各店舗内に至るまで人流を把握できれば、地元商業関係者は、適切な販売・価格戦略、人員配置などに直接利用することができるのである。最後は住民(ここでは観光客なども含んだ広い意味で用いる)。住民に積極的に利用してもらうことが非常に重要だが、データの公表だけでは利用してもらえないので、見せ方(どんなツールを使い、どんなデザインで)を工夫する必要がある。

 活用事例としては、まずは混雑緩和への利用が考えられる。朝晩のラッシュ時、どれくらいの時差で出勤したら、駅の混雑は避けられるのか、個人的にも非常に興味がある。

 逆に混雑緩和ではない利用も考えられる。ワールドカップで盛り上がったパブリックビューイングならどうか。一緒に応援する仲間がたくさん集まっているところに参加したいはずである。最近の気象情報では、リアルタイムで雨雲を確認、もしくは今後の予想を確認できるため、出社時間や帰宅時間をうまく調整する賢い住民も増えている。動的データで住民の行動変容が起こっている好事例であり、人流データも様々な行動変容を起こす利用が可能である。
 

マーケティングや混雑緩和など、利用方法など整理

 

 最後に、当社の取り組みを1つ紹介したい。2018年12月より、神戸市三宮周辺地域において赤外線人流センサーを設置し(現在約130個)、再整備基本構想実現に向けての街づくり基礎データ収集、商店街、歩道橋や横断歩道などの特定領域の人流分析、都心三宮地域で開催されるイベントでの集客効果の把握や安全対策の検討を神戸市と協力して実施している。また、現在、複数の市町村で赤外線人流センサーの設置について、通勤・通学時や観光シーズンにおける混雑緩和や地域のマーケティングに利用する目的で検討を進めているところである。

 こうした人流データの活用について、まず行政、民間事業者、住民それぞれがどう利用するのか、また、それをどのように見せるのか、費用負担をどうするかを整理したい。さらに今後、カメラなどの画像データ、携帯電話会社が持つ属性データなどとの連携も、プライバシーに配慮しながら進めていきたい。

 スマートシティーの取り組みにゴールはない。すぐに始める、そして継続するといった地道な活動が必要である。こういった活動を地域密着の電力会社が牽引していくことは行政や住民から強く期待されているところである。適正な収益を確保しながら、新たな付加価値創造に取り組んでいく持続可能な社会実装になるよう、活動を加速させていく。現在検討中のサービスもまだまだある。機会をみつけて紹介したい。

【用語解説】
◆動的データ 
更新頻度が高く、リアルタイムに生成される時間軸に連続したデータ。データの分類として、センサデータ、ログデータ、人流データ、ストリーミングデータなどがある。リアルタイムに変わるデータであるため、時刻情報の付与や履歴管理などが必要となる(出典:総務省)

◆EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング=証拠に基づく政策立案) 
政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化した上で合理的根拠(エビデンス)に基づくものにすること。政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資する(出典:内閣府)

電気新聞2020年11月2日

(全3回)