政府の成長戦略会議(議長=加藤勝信官房長官)は12月25日、2050年カーボンニュートラルを踏まえたグリーン成長戦略を示した。課題や工程表などを整理した実行計画を14の重点分野にわたって策定した。グリーン成長戦略の前提となる50年の電力需要は、現状比30~50%増の約1兆3千億~約1兆5千億キロワット時になると試算。需要の100%を再生可能エネルギーで賄うことは困難と強調した。予算、税制、金融、規制改革など、あらゆる政策を総動員して日本として「実質ゼロ」を目指す。

 グリーン成長戦略は、菅義偉首相が梶山弘志経済産業相に作成を指示し、関係省庁の協力を得て取りまとめられた。同日、梶山経産相が成長戦略会議に報告した。今後も改訂作業を進め、来年6月にもまとめる政府全体の成長戦略に組み入れる予定。温暖化への対応を経済成長の制約ではなく、成長の機会と捉え、「経済と環境の好循環」を醸成する。戦略に基づけば、30年に年額90兆円、50年に190兆円程度の経済効果が見込まれるとする。

 成長戦略の前提となるエネルギー政策として、電力需要見通しのほか、電源構成の参考値も提示。50年に再生可能エネを50~60%、原子力と二酸化炭素(CO2)回収を前提とした火力を30~40%、水素・アンモニア発電を10%程度とした。今後、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会で議論を深める見込み。

 240兆円とされる企業の現預金を投資に振り向けるため、意欲的な目標を設定した。金融では、政策金融との連携を含む金融機関の協力態勢構築などを課題に挙げた。関係省庁で集中的に議論し、来春をめどとするグリーン成長戦略の改定に反映する。規制改革ではカーボンプライシング(炭素の価格付け)について、成長戦略につながるものに限って既存制度の強化や対象の拡充、新制度も含めて検討する。

 50年の水素導入量2千万トンや、2030年代半ばまでの乗用車新車販売を電動車100%とするなど、14分野それぞれで野心的な目標を掲げた。また、エネルギー供給構造高度化法の非化石電源に水素を加える。原子力ではSMR(小型モジュール炉)や、高温ガス炉を活用したカーボンフリー水素の製造に注力する方針が示された。

◆グリーン成長戦略 14分野の要点
(1)洋上風力
・2040年3000万~4500万キロワット導入
・直流送電の具体的検討開始
(2)燃料アンモニア
・2030年に向けて20%混焼の実証を3年間実施
・日本の調達サプライチェーンを構築し2050年で1億トン規模目指す
(3)水素
・導入量を2030年に最大300万トン、50年に2000万トン程度に拡大
・水素コストを20円/N立方メートル程度以下に
(4)原子力
・小型炉(SMR)の国際連携プロジェクトに日本企業が主要プレーヤーとして参画
・高温ガス炉で日本の規格基準普及へ他国関連機関と協力推進
(5)自動車・蓄電池
・遅くとも2030年代半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%
・2030年までのできるだけ早期に、電気自動車とガソリン車の経済性が同等となる車載用の電池パック価格1万円/キロワット時以下
(6)半導体・情報通信
・データセンター使用電力の一部再生可能エネ化義務付け検討
・2040年に半導体・情報通信産業のカーボンニュートラル目指す
(7)船舶
・LNG燃料船の高効率化として、低速航行や風力推進システムと組み合わせCO2排出削減率86%を達成
・再生メタン活用により実質ゼロエミ化を推進
(8)物流・人流・土木インフラ
・海外からの次世代エネルギー資源獲得に資する港湾整備の推進(9)食料・農林水産業
・地産地消型エネルギーシステムの構築に向けた規制見直しの検討(10)航空機
・2035年以降の水素航空機の本格投入を見据え、水素供給に関するインフラやサプライチェーンを検討
(11)カーボンリサイクル
・2050年の世界のCO2分離回収市場で年間10兆円のうち、シェア3割を目指す。約25億トンのCO2に相当
(12)住宅・建築物/次世代型太陽光
・住宅トップランナー基準のZEH相当水準化
・ペロブスカイトなど有望技術の開発・実証の加速化、ビル壁面など新市場獲得に向けた製品化、規制的手法を含めた導入支援
(13)資源循環関連
・廃棄物発電において、ごみの質が低下しても高効率なエネルギー回収を確保
(14)ライフスタイル関連
・Jークレジット制度などで申請手続きの電子化・モニタリングやクレジット認証手続きの簡素化・自動化

電気新聞2020年12月28日