2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けて、コストの課題があらためて浮き彫りになっている。日本に先行して目標を打ち出したEU(欧州連合)は複数のシナリオを描き、電力単価が3~7割上昇すると見込む。二酸化炭素(CO2)取引価格は14倍と大幅上昇する試算だ。コストの低減には研究開発の進展が必要としており、日本もイノベーション戦略の再構築に迫られる。

 EUは電力単価が15年比で30年に2割、50年に3~7割上がると試算する。電力システムの脱炭素化に費用がかかる見通しだ。電源構成の81~85%を再生可能エネルギーが占める。CO2回収・貯留(CCS)など、炭素関連技術も不可欠と位置付ける。

 電化率は15年の22%から、50年に50%まで高まる。運輸部門の電化が加速し、住宅や産業部門でも大きく進むと想定。50年カーボンニュートラルの実現は「技術的にCO2排出原単位を下げやすいため、電化率を上げるのが王道だ」と、地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾システム研究グループリーダーは11日の政府の有識者会合で指摘した。

 EUの排出量取引制度で炭素排出枠価格は現在、1トン当たり約25ユーロ。50年にカーボンニュートラルを実現するシナリオでは350ユーロまで大幅に上昇する。仮に、温室効果ガス排出量削減目標を15年比80%に引き下げても250ユーロと、現状から10倍の高水準だ。30年は28ユーロと想定しているため、急激に価格が上がる。

 EUは研究開発の進展によってコストを低減させられるとしつつも、技術開発の成功には不確実性も大きいと認識している。消費者の行動や規制の状況によっても、結果が変わると見込む。EUは将来の不透明さを織り込みながら、カーボンニュートラルの実現に向けて2つのシナリオを策定した。

 日本も50年カーボンニュートラルに向けた戦略を構築するにあたり、まずは議論の土台となるシナリオづくりが求められる。

電気新聞2020年11月13日