実証に使われたPHEV。通勤の合間に安い電気を探して充電する

 東京大学、トヨタ自動車、東京電力グループのTRENDE(東京都千代田区、妹尾賢俊社長)によるP2P(ピア・ツー・ピア)電力取引の実証実験が8月に完了した。家庭の太陽光発電や通勤用のプラグインハイブリッド車(PHEV)を利用して電力を売買する仕組みで、系統電力のみの場合よりも経済性が高まることを確認した。技術的な実用化にはめどが立ったとしており、引き続き商用化に向けた検証を進めていく。

 8月下旬、快晴の日の午後2時半頃。トヨタの東富士研究所(静岡県裾野市)では、PHEVからの電力供給がまさに行われているところだった。供給先の事業所は特別高圧契約で系統電力を購入しているが、PHEV側が入札していた値段の方が割安であると人工知能(AI)の「電力売買エージェント」が判断。PHEVからの供給へと自動的に切り替わった。

 東大、トヨタ、TRENDEによる実証実験は2019年7月に始まった。太陽光発電や蓄電池を持つ家庭20戸、通勤などに使うPHEV9台、太陽光を置く事業所1カ所でP2P取引を検証する世界初の試みだ。太陽光を持つ家が余剰電力をPHEVの充電用に売り、互いに経済性が成り立つかどうかを確かめた。

 売り手となるプロシューマーは、太陽光の電力を自家消費しながら、余剰が出そうな時を予想し、1日前に値段を付けて売り札を立てる。コンシューマーとなるPHEVは、運転しない日中などに安い売り札があれば充電する。PHEVからの供給も可能で、事業所でピークカットが必要な際などに放電する。これらはいずれも電力売買エージェントが自動で実行する。

 太陽光を持つ家は、系統側に買ってもらうよりも高く売れれば利益が出る。PHEVの所有者も、系統より安い電力で充電できればメリットが生じる。

 実証実験では1キロワット時当たり10円前後の利益が出るケースも確認できた。実証実験を主導した東大大学院の田中謙司准教授は「できるものは全てやり切った。技術的には実用化のめどが立った」としている。

 今後の課題は、ビジネスとしてどう育て上げていくかだ。TRENDEの妹尾賢俊社長は「投資発生をどう回収するか。電気料金だけでは難しいかもしれない」としつつ、「実証実験のデータを見ると、原資は生まれてきそうだ」と期待をかける。

 ビジネスとして展開する場合にはシステムを簡素化する必要もある。田中准教授は「今回はブロックチェーンをあらゆる部分で使い切っているが、そこまでこだわらなければよりシンプルにできる」と説明する。

 リスクの分析・把握も重要な課題だ。実証実験で使用された電力売買エージェントはおおむね安定的に稼働したが、ビジネス化する場合は、どのレベルまでトラブルが発生するかなど最悪のケースを考えておく必要があるという。

 トヨタの木村和峰・未来創生センターS―フロンティア部第1エネルギーグループ長は「ビジネスにはもう1ステップ必要だが、課題はある程度見えてきたので、一つずつ解決しながら着実に進めていきたい」と話す。

 太陽光、PHEV、蓄電池を組み合わせたP2P電力取引が普及すれば、これらのアセットを持つ消費者が利益を享受することができ、PHEVの普及にも弾みがつく。太陽光の出力抑制が不要になる可能性もあり、再生可能エネルギーの拡大と電力系統の安定化を両立できる手段としても注目されている。

電気新聞2020年9月18日