梶山弘志経済産業相が非効率石炭火力の早期削減を表明してから約1カ月たち、検討の輪郭が少しずつ見えてきた。誘導措置と規制的措置の両輪で、政策目標を達成する。省エネルギー法の目標引き上げなど個々の措置はもとより、両者のバランスを巡って今後も活発な議論が続きそうだ。
誘導:休止プラントにも価値を
非効率な石炭火力の早期削減に当たっては、安定供給確保が大きな課題となる。この点については、7月31日に行われた総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の制度検討作業部会(座長=横山明彦・東京大学大学院教授)で検討が始まった。まず論点となったのは、削減対象となった非効率な石炭火力の供給能力について、その価値をどう捉えるか。今回の政策で「休止」となった発電所を、大規模災害後の供給力として捉える考えだ。実際に2011年の東日本大震災後は長期停止の火力を活用し、需給バランスを維持に努めた事例がある。
会合では、委員からおおむね肯定的な声が聞かれ、特に各業界のオブザーバーからは、「休止」の価値を明確にするとともに、供給能力として活用するべきといった意見があった。休止を決断する事業者にどういうインセンティブを与え、早期の削減を誘導するか、今後の検討が注目される。その際、一定の稀頻度リスク対応を目標調達量に織り込んでいる容量市場との整合性などが問われる。議論によっては、新たな制度措置の検討も視野に入る。
検討期限について、資源エネルギー庁は明確な期限を区切った検討はしないとの姿勢を崩していないが、「長い間議論を続けるわけにはいかない。20年中や20年度中に、めどを付けることも必要になってくる」とも話す。
規制:自然な退出促す目標設定
一方、規制的措置については、新設された総合エネ調の石炭火力検討ワーキンググループ(WG、座長=大山力・横浜国立大学大学院教授)で議論する。今月7日の初回会合では、省エネ法による30年度の石炭発電効率目標(41%)の引き上げを求める意見が複数の委員から出た。今後どれくらいの規制強度にすれば、非効率な石炭火力が自然と退出し、政策目標を達成できるか議論を進める。自家発のほか、沖縄、北海道といった非効率石炭火力に頼らざるを得ない地域への配慮などは今後、具体的議論が進む見通しで、事業者ヒアリングが今月から始まる。
これに加えて、別の新たな規制的措置の検討が進む可能性もある。その場合、総合エネ調の電力・ガス基本政策小委員会(小委員長=山内弘隆・一橋大学大学院特任教授)など、上部の会議体で議論される可能性もある。
誘導と規制――。非効率石炭削減に向けた措置の輪郭は見えてきたものの、まだ検討は始まったばかり。エネ庁は両者について、措置の内容や時間軸を整合させる方針を示している。事業者の自主性にも一定程度期待しつつ、両者のバランスを適切に定め、いかに政策目標を達成させるか、今後の議論が注目される。
電気新聞2020年8月18日
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