世界的な新型コロナウイルス感染拡大が、電力市場や原子力事業に今後どう影響を与えるかが注目されている。日本エネルギー経済研究所は、欧米では電力需要の減少とともに電力価格が低下していることを踏まえ、原子力事業へ与える影響を(1)既設炉による発電事業(2)新規建設プロジェクト(3)革新技術開発――の3分野で考察した。一部の新規建設では、海外作業員の一時帰国などによって計画が遅延しているほか、既設炉では需要減が長引くことで原子力の発電量も長期的に減少する可能性が出ている。

 ロシアの原子力発電運転会社のロスエネルゴアトムは、ロシア国内で建設中のレニングラード第二原子力発電所2号機について、海外作業員の一時帰国を受け、送電開始が当初計画から約6週間遅れて、2021年4月1日になると公表。米国で建設中のボーグル3、4号機でも約2割の作業員を一時的に削減しており、運転開始が遅延する可能性が出ている。

 また、フィンランドのオルキルオト3号機は、感染拡大によって燃料装荷作業が遅れる見込みで、予定している20年11月の試験送電開始が遅れる見通しとなった。
 
 ◇欧米で収益悪化
 
 国際エネルギー機関(IEA)は感染拡大の影響で、20年の世界全体の電力需要が前年比5%減になると予測。地域別では、サービス業のエネルギー需要が多い欧米で、相対的に減少率が大きくなるとしている。

 エネ研が欧州電気事業連合会の発表を基に、原子力比率の高い各国の需要の状況を分析したところ、フランスは5月中旬時点で前月からは2割ほど上昇したが、前年比では9%減だった。ベルギーでは5月に入って都市封鎖が徐々に緩和され、需要も回復しつつある。

 ただ、電力需要は今後数年にわたって落ち込む可能性もある。原子力の発電量が例年4千億キロワット時程度のフランスでは、フランス電力が4月に今後の原子力の発電量の見通しを発表。20年は3千億キロワット時と大幅に減少し、21~22年も3300億~3600億キロワット時にとどまると予想した。

 米国や英国などでは、再生可能エネルギーや天然ガス火力が拡大することで、原子力の収益性が悪化していた。感染拡大によって需要が減少し、化石燃料価格も低水準で推移しているため、収益性がさらに悪化する恐れがある。

 エネ研は「発電事業者の収入減は、国民生活に必須となるインフラへの投資さえ脅かす恐れがある。電力需要が回復した時に、この問題が顕在化してくる」と指摘した。
 
 ◇「SMR」は前進
 
 一方、米国やカナダで進む小型モジュール炉(SMR)開発といった革新技術開発の面では、感染拡大やエネルギー市場の変化による影響は出ていない。両国では感染拡大期の4、5月に、新型炉やSMR用新型燃料の開発を支援する施策を打ち出した。

 エネ研は、今後の展望について「感染拡大による電力市場への影響は、数年間のスパンで原子力にとってこれまで以上に厳しい状況をつくり出す」と予想。その一方で、感染拡大の終息後は「エネルギー供給に関する輸入依存の低減が、政策上のプライオリティーとして一層重視される可能性は高い。原子力は1年以上継続して運転できるため、エネルギー安全保障政策に貢献できる」と説明している。

電気新聞2020年7月3日