DeNAでは主力のゲーム事業に加え、eコマース、エンターテインメント、スポーツ、ヘルスケア、オートモーティブ、エネルギーなど多種多様な事業を展開しているが、特に力を入れているのが人工知能(AI)分野である。今後4回にわたり、AIにおけるDeNAの取り組み、海外のエネルギー産業におけるAIの事例を紹介する。今回は、「そもそもAI」とは何なのか、ゲーム事業における活用事例について紹介したい。
 

AIの社会実装が進み、新たな産業革命の過渡期に

 
 昨今話題に上ることが多い「AI」だが、実はその歴史は大変古く、1950年代から存在している言葉である。

 近年、ディープラーニング(深層学習)研究やその実装、周辺技術の進展に伴い、これまで人間の認識を超えることが困難であった非構造化データを、コンピューター上で人間以上に扱うことが可能になった。

 現在話題になっているAI活用事例の多くは、このディープラーニングを活用したものである。通信速度・処理速度・IoT(モノのインターネット)技術の進展に伴い、今後あらゆる産業でAIの実装が進み、産業構造が大きく変化すると予想されている。現在はまさに産業革命の過渡期にあると言える。

 もちろん、AIは万能ではない。

 AIはデータを取得し、得られたデータを元に分析・運用することで予測精度が向上する。AIの構築には、十分なデータを取得できる環境が必要である。

 また、AIの判断根拠はブラックボックス化され、人間には理解できないケースも多い。判断根拠を把握する必要がある課題には、AIの活用は困難である。

 精度の高いAIを構築するためには解決したい課題や目的を明確に定義した上で開発することが重要で、正確で十分な量のデータを収集できる環境が必要だ。
 

複雑なゲームの仕組みを簡単にするAI。これを電力業界にも

 
 DeNAでは多くの領域でAIを活用しており、モバイルゲームなど、自社サービスでも開発・運用が進んでいる。

 以下、DeNAの主力ゲーム『逆転オセロニア』の事例を紹介したい。

 『逆転オセロニア』は、オセロのルールをベースにした対戦バトルゲームアプリである。

 逆転オセロニアには3千体以上のキャラクターが存在し、ゲーム構造が大変複雑である。このため、プレーヤーのサポートやゲーム運営においてAIを活用している。


 
 まず、プレーヤー向けの機能を説明する。

 1つ目に、対戦キャラクターを決定するデッキ編成のサポート機能である。前述の通り、本ゲームでは3千体以上のキャラクターが存在するため、初心者にはデッキ構成の難易度が高い。このため、プレーヤーが有する駒から最適なデッキ編成をAIが提案する機能を実装している。この機能により初心者がゲームから離脱することを軽減している。

 2つ目は、プレーヤーの練習相手となる機能「オセロニア道場」である。本ゲームはプレーヤー同士をマッチングして対戦するゲームであり、ゲームを始めたばかりの初心者が上級者とマッチングすると勝利のハードルが上がってしまう。そこで、プレーヤーの習熟度に応じて難易度を調整できるAIとの対戦練習の場を用意し、ゲームの腕を磨くことができるようにしている。

 最後にゲーム運営のサポート機能である。前述の通り3千体以上のキャラクターが存在することで、対戦パターンや機能の組み合わせパターンが膨大な量になっており、ゲームプランナーが新たなキャラクターを投入する際、そのキャラクタースキルのバランス調整が大変難しい。そこでDeNAではAIを構築してテスト環境を用意することで自動的にバランス調整を行い、ゲームプランナーの負担を軽減している。

 このようにゲーム開発の現場では、AIを活用する事例が増えている。電力業界とは大きく異なるが、AI活用の最先端事例としてゲーム事業の事例を紹介した。DeNAではゲームで培ったAI技術を社会課題解決に向けて応用しており、電力業界においてもAIの活用事例が存在する。

 次回は、火力発電設備におけるAI活用の事例を紹介する。

【用語解説】
◆非構造化データ 
画像、音声、運動認識(センサーによる加速度認識)などを指す。

電気新聞2020年3月2日