原子力規制委員会と原子力規制庁が、原子力発電所に対して行う検査制度が4月に大きく生まれ変わった。最大の変化は、事業者自らが主体的に検査を行い、安全の一義的責任を持つようになったことだ。規制当局は、従来の検査を一本化した「原子力規制検査」によって、事業者のあらゆる保安活動を監視する。従来が「国による規制」なら、今後は「事業者による自主規制」。安全水準の向上を目指した「新検査制度」の全容に迫った。

 そもそもだが、原子力発電所に対して規制当局が実施する検査とは、運転段階の規制を指す。従来制度の「使用前検査」や「施設定期検査」「保安検査」などがそれだ。ただ、従来制度では規制当局による検査の複雑化・細分化が進んだために範囲の重複が生じ、規制当局と事業者双方が行うような検査も存在していた。

 この検査制度を見直す直接の契機となったのが、国際原子力機関(IAEA)が2016年に発行した日本の原子力規制に関する報告書だ。報告書でIAEAは「検査制度を改善・簡素化すべきだ」と指摘。規制庁の検査官に、いつでも施設に立ち入ることができる「フリーアクセス」の権限を付与することなども求めた。

 これを受け、規制委は検査制度の抜本的な見直しを決定した。新制度では、これまで規制当局が実施してきた使用前検査や施設定期検査を廃止し、事業者検査化。事業者が主体的に合否判定を行い、問題点は自ら改善することとした。

 さらに、規制当局は従来の検査を一本化した「原子力規制検査」によって、事業者が行う検査や改善活動など、あらゆる活動をフリーアクセスで監視することとした。

 規制委は、こうした新検査制度の内容について、米国が2000年から運用しているROP(原子炉監督プロセス)をひな型とした。18年10月には新検査制度の試運用を開始し、半年ごとに試運用の範囲を拡大。今年4月、本格運用を始めた。

 経緯はここまでの通りだが、新検査制度への理解を深めるためには、その基本理念に踏み込む必要がある。新検査制度はIAEAの指摘やROPにならい、「パフォーマンスベース」で「リスクインフォームド」な検査を行うとしているが、この2つの概念は日本ではまだなじみが薄い考え方だからだ。

 パフォーマンスベースとは、結果を重視する検査を行うことを指す。結果が悪ければ規制が強まり、結果が良ければ通常通りの規制となる。リスクインフォームドは、パフォーマンスの低下予測にリスク情報を活用することを表す。リスクを定量的に評価する確率論的リスク評価(PRA)などが活用される。リスクの大小が分かれば、パフォーマンスに変化がなくても、安全裕度が低下した状態を見極められる。リスク情報は事業者も自主的な安全性向上活動に活用し、パフォーマンスの劣化を未然に防ぐ。

 2つの概念をうまく取り込めれば、事業者は規制当局とベクトルを合わせ、安全重要度の高い活動に重点的に取り組める。事業コンサルタントで米国ROPに関する著書もある近藤寛子氏は「新検査制度では、事業者の自主的な安全性向上を実現できるかがとても重要だ」と話す。

 新検査制度では、規制当局から発電所ごとの総合評価が年に1回公表される。近藤氏は「米国ではROPが始まってから、パフォーマンスが何年も低くとどまる発電所は少ない」と指摘する。日本の新検査制度でも、事業者と規制当局の取り組みがかみ合えば、安全水準の向上という果実がもたらされるはずだ。

電気新聞2020年4月16日

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