デジタルサイネージ版の災害ダッシュボード。画面下部には行政機関などの発表文を4カ国語で表示する。右端のライブカメラ映像はエリア周辺の状況を映し出す
デジタルサイネージ版の災害ダッシュボード。画面下部には行政機関などの発表文を4カ国語で表示する。右端のライブカメラ映像はエリア周辺の状況を映し出す

 都心部の再開発に合わせ、大手デベロッパーが街の防災力強化を図っている。阪神・淡路大震災から25年を迎えた今年1月には、森ビルと三菱地所がそれぞれ災害に関する訓練や実証を行った。多くの人が集まる地区だけに、利用者や周辺の滞留者の安全確保が問われている。
 
 ◇社員も街も
 
 虎ノ門の再開発を手掛ける森ビルは1月17日、全社員約1300人が参加する総合防災訓練を自社で管理・運営する各施設で実施した。

 虎ノ門ヒルズでは、低電力広域無線通信(LPWA)を活用した社員の位置情報把握システムを本格導入した。手のひらサイズの端末をヘルメットに装着すると、発災後の社員の足取りが把握できる。一般通信回線と異なる帯域を使用し、停電時でも通信が可能だ。

 同社では災害時、社員が管理物件の被害確認に向かう。ただ、その際の社員の安全確認は、本人からの報告を待つしかなかった。

 管理するビルなどは帰宅困難者の受け入れ拠点として機能する。前提として、社員の安全確保は欠かせない。森ビルでは「まず社員の安全を見守ることで、街の安全も確実に確保したい」としている。
 
 ◇「情報ハブ」
 
 一方の三菱地所は1月22日、周辺事業者と共同で、首都直下地震を想定した帰宅困難者向けの情報提供実験を丸の内エリアで行った。

 この取り組みでは「災害ダッシュボード3.0」と呼ばれる情報基盤を活用する。NHKの災害放送や、帰宅困難者受け入れ施設の混雑状況といった情報を発信していく。エリア内の約100台のモニターで見る「デジタルサイネージ版」と、スマートフォンなどで閲覧可能な「WEB版」の2種類。日英中韓の4カ国語に対応する。

 災害ダッシュボードは、災害対応に必要な情報を集約する「ハブ機能」だ。千代田区の災害対策本部や、鉄道事業者をはじめとする関連機関の情報を一手に収集。周辺施設に設置したカメラのライブ映像配信も行う。

 デジタルサイネージ版の画面上にある2次元バーコードを読み取れば、地図アプリに受け入れ施設の位置や満員などの状態を示す機能も備えている。

 実験では、ビル内の大型ビジョンなどでデジタルサイネージ版の表示へ切り替えを実施。その場に居合わせたビル利用者は画面に視線を送っていた。

 丸の内エリアでは約4万2千人の帰宅困難者を見込む。調査結果ではその多くが帰宅を望むという。ただ、混乱回避の面から「街にとどまる」といった選択肢は重要だ。それを支えるツールが災害ダッシュボードといえる。

 三菱地所開発推進部の澤部光太郎さんは「自宅に帰らないように誘導していくことが重要。安全に寄与する情報を提供するものだ」と意義を強調する。

 実用化は未定だが、今回の実証を踏まえ、機能強化を進めていく。

電気新聞2020年2月27日