カナダ原子力協会のSMRロードマップウェブサイト
カナダ原子力協会のSMRロードマップウェブサイト

 カナダが小型モジュール炉(SMR)の導入に意欲的だ。連邦政府は都市部から距離が遠い自治体や工業地帯など、点在する需要地に電力や熱を送れるシステムとして評価している。オンタリオなど3州は昨年12月に商用炉の開発と建設で協力する覚書を結び、一部の州は開発企業に資金を拠出した。国立原子力研究所は2026年までに実証炉を建設する計画で、協議先のカナダ企業が規制当局の設置審査を受けている。官民で温度差がある米国と異なり、カナダは官民一体で積極的な導入姿勢を打ち出している点が特徴だ。

 SMRは数万キロワット規模の小型炉を必要に応じて連結し、出力を柔軟に増やせる構成。軽水炉や高温ガス炉など様々な炉型があり、万が一の事故時も自然冷却が可能で安全性が高いとされる。1基当たりの建設期間が短いため、初期投資額の抑制に期待がかかるが、カナダに豊富な水力発電など他の低炭素電源よりコスト競争力を発揮できるかも鍵だ。連邦政府は、一昨年に策定したロードマップでSMRの活用シーンを描く一方、有力な電源に育てるための資金支援の方向性や、官民のリスク分担の在り方なども盛り込んだ。

 昨年末に覚書を結んだ3州のうち、東部に位置するニューブランズウィック州は、同州と州営の電力会社が共同で設立した商用炉の開発企業に資金を投じている。また、カナダ型重水炉(CANDU炉)の開発に大きな役割を果たした国立チョークリバー研究所は、SMRを研究の柱に掲げており、26年までに高温ガス炉タイプの実証炉を構内に建設する。

 同研究所の協議先のグローバル・ファースト・パワーは電気出力5千キロワット・熱出力1万5千キロワットの実証炉をカナダで唯一、規制当局の正式な審査プロセスにかけている。また、「VDR」と呼ぶ規制当局の事前審査を複数のSMR開発企業が受けている状況だ。原子力政策に詳しい海外電力調査会の江川弘和上席研究員は、州政府や事業者間でSMRへの熱意に差がある米国に比べて、「カナダは連邦政府、州政府、事業者とも導入に積極的だ」と指摘する。

 江川氏は、SMRにとどまらず既設の重水炉も含め、カナダは低炭素化に貢献する原子力の中長期的な活用政策を明確に打ち出しているという認識も示す。象徴例は、全土にある19基の重水炉のうち18基が立地するオンタリオ州の取り組みだ。全土の原子力の発電電力量比率は約15%だが、カナダの人口の約4割が集まり、経済の中心である同州に限ると発電電力量比率は60%強に上る。

 このオンタリオ州は設計寿命30年の重水炉10基を順次改修し、各基の運転を30~35年延長する事業を進めている。最後の改修基は2064年までの長期にわたり稼働させる。総費用は約2兆1千億円の見通しで、既に一部のプラントは工事中だ。州政府は原子力産業のサプライチェーンを維持する効果も訴えており、江川氏は「前向きな姿勢だ」と評価している。

電気新聞2020年2月20日