電力システムは、世界中で進展する再生可能エネルギー導入・分散化の大きな変革期にあり、その特徴の一つに、“電力系統の民主化(グリッド・デモクラシー)”がある。電力を輸送するグリッドは、プレーヤー拡大の中で中立・公平でなければならないことを意味するが、当然順守しなければならない取り決め(グリッドコード)が必要となる。3回にわたり、“グリッド・デモクラシー”と、その鍵となるグリッドコードの動向、新たなテクノロジーについて述べる。
プロシューマーの登場で電気の流れは双方向に
電力システム改革が進んでいるが、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の設立、発電・小売完全自由化に続き、旧一般電気事業者から送配電部門が独立し、関係する事業者や発電等の設備に対して中立・公平な事業者として、送配電系統(グリッド)の利用を提供していくこととなる。
このような電気事業の形態は欧米では既に存在しており、ひとたび技術的に成熟した電力事業が、多様なプレーヤーの参入と競争・創意工夫によって、より高い経済性や活力を求めて向かう一つの方向性であると考えられる。
また、近年のエネルギー政策として世界的に進行している再生可能エネルギーへのシフト、さらにリチウムイオン蓄電池の性能向上・価格低下、自動車の電動化等は、従来の電力システムにパラダイムシフトを起こし、大規模かつ制御性の高い発電機で起こした電気を、グリッドを通じて需要家に一方向に送る従来の姿は大きく様変わりする。
風力・太陽光発電などの変動性再生可能エネルギー(変動性再エネ)が主力化し、太陽光パネルや蓄電池・電気自動車といった分散エネルギー資源を持つ需要家は、電気を使うとともに創り出すプロシューマーへ転身する。デジタル技術により、プロシューマーは資源を自らの利益・利便性を最大化するようにコントロールする。こうして電気の流れは変動の大きな双方向のものになる=図。
IECは5つの牽引役の一つに「民主化」を挙げた
IEC(国際電気標準会議)は、将来の電力システムの安定運用に関する白書で、こうした変化を牽引するのは、“脱炭素化”、“分散化”、“自由化”、“民主化”、“デジタル化”である、と述べた。
この中で、本稿の主題である“民主化”だけは当分野では耳慣れない用語であるが、冒頭述べたあらゆる事業者・設備に対して、グリッドを対等にすることを意味する。
しかし対等といっても、電力システムには安定・安全確保のための事項が多々あり、物理的にグリッドにつながるものが安定運用を阻害せず、他者に悪影響を及ぼさないために、守られるべきルールが必要となる。その体系化されたルールの総体を、グリッドコードという。
欧州では、ENTSO―E(欧州送電系統運用者ネットワーク)において、欧州全域の市場統合および自由な電力取引のために、「欧州共通ネットワークコード」が整備されており、変動性再エネの拡大といった変化に対応して随時更新されている。
日本版グリッドコードの整備が始まった
日本においては、グリッドへの連系に関わる規定は、資源エネルギー庁や一般送配電事業者が定めており、発電機が具備すべき機能やその具体的な要件等を規定してきた。変動性再エネ連系可能量の一層の拡大のため、先行する欧州の状況などを参照しながら、火力発電機の柔軟性向上、変動性再エネの最大出力抑制や最大変化率制限などの制御機能に着目して、シミュレーションによる検証を礎に、日本版のグリッドコード整備が開始された。
【用語解説】
◆グリッドコード(Grid code)
IEAは、「電力システムや市場に接続された資産が順守しなければならない幅広い一連のルールを網羅した包括的な条件であり、その制定目的は費用対効果と信頼性の高い電力システム運用を支援すること」と定義している。
◆日本の系統連系に関わる規程
(1)「電力品質確保に係る系統連系技術用件ガイドライン」(資源エネルギー庁)、(2)「系統連系規程」(日本電気協会)、(3)「系統連系技術用件(託送供給等約款別冊)」(一般送配電事業者)、(4)「系統アクセスルール」(一般送配電事業者)がある。(1)は電力品質確保のための事項など、(2)は電力設備の技術基準など、(3)・(4)は(1)・(2)に基づくグリッドに連系する技術要件などを定める。
電気新聞2019年12月9日