IoT(モノのインターネット)時代を迎え、これまでモノづくりの技術で世界を牽引してきた日本の製造業も、クラウド上の様々なサービスに付加価値がシフトしていく世界の動きに対しては、残念ながら後塵(こうじん)を拝する状況にある。スマートフォンの普及により個人の発信力が情報に大きな影響を与える時代には、多様なニーズに対応するソリューション型へのビジネスモデルの変革が必要である。今回は最終回として、三菱電機の取り組みと、キーとなるIoTプラットフォームについて述べる。
 

クラウド化された機能に知能を持たせ、APIで他社と連携

 
図_設計思想_4c
 これまで3回にわたり、IoT技術の普及によりモノとコトがつながることで、新しいニーズに対応したビジネスモデルが発展していく可能性について述べた。三菱電機も内外の力を結集した統合ソリューションを提供することで、ビジネスモデルの変革への対応に取り組み始めた。

 特に、家電機器や設備機器の事業では、お客さまと直接つながり、新しい価値創出を提供することを目指してIoTプラットフォームの構築を推進している。モノとしての製品開発は、現実世界での性能や安全を担保する上でその重要性は変わらないが、クラウド化されたコトとしての機能・サービスに知性を持たせ、さらにAPIエコノミーによる様々なパートナーとの連携の中で顧客満足度の最大化を図ることが重要と考える。

 家電機器や設備機器には、個別にクラウドに接続される機種もあれば、複数の機器がコントローラー経由で接続される機種もある。また、通信プロトコルやデータ形式なども異なる場合がある。異なった機種をクラウドにつなげ、付加価値の高いソリューションを効率的に実現するには、統一したIoTプラットフォームの設計思想が求められる。

 当社のIoTプラットフォームの設計思想は、機器―クラウド間I/Fの統一、クラウド共通機能の汎用化、データ構造の共通化、拡張性を考慮した設計の4つからなる。機種ごと、または、グローバル地域ごとに異なる事業環境の中では異なるソリューションを実現する必要性がある一方で、プラットフォームの共通性・汎用性を担保するために、それぞれのソリューションは拡張アプリケーションとして実現する。これらは、後に共通化すべきと判断した時にプラットフォームに組み込むことのできる仕組みとすることで、長期にわたる維持管理とプラットフォーム自体の成長を確保できる。

T&T_図_グローバル展開_4c
 また、グローバル戦略の視点からは、1つの地域で開発したソリューションが時を経て、他の地域でも活用可能となることも想定し、IoTプラットフォームをグローバルで統一することが重要である。ただし、地域により個人情報に関わる法制度が異なるため、実行環境を分散配置するなどの配慮もする必要がある。

 

顧客の望む機能、サービスの提供が重要な競争軸に

 
 ITの高度化と市場ニーズの変化に伴い、IoT時代には、様々なモノがクラウド上の様々なサービスとつながるサイバー・フィジカル・システム(CPS)をベースとした新しいビジネスモデルの創出と顧客価値の実現が可能となる。

 製品の機能として提供される付加価値は、物理的な制約と限られたコストの中で実現する必要があったが、この制約から解放されたCPSの下では、いかにお客さまの望む機能やサービスを継続的に提供し、改善し続けられるかが重要な競争軸となってくる。

 発想の転換と新たな技術の積極的な導入により高い顧客価値を提案していきたいと思う次第である。

【用語解説】
◆IoTプラットフォーム
インターネットに接続された多くのモノの管理や制御を効率的に構築するためにクラウド上にあらかじめ用意されたソフトウエアのこと。

◆APIエコノミー
複数のウェブサービスを連携することで顧客の様々なニーズに対応する複合サービスを提供すること。様々なウェブサービスがウェブAPIというインターフェースを開放することにより可能となる。

◆サイバー・フィジカル・システム(CPS)
インターネットに接続された現実世界のモノと仮想世界で実現されるサービスとしてのコトがつながることで多様なソリューションの提供を可能とするシステムのこと。

(全4回)



電気新聞2019年12月2日