これから10年間のIT分野の進歩を語る上で、現実世界のモノがクラウドに接続され、クラウド上の仮想世界における多様なサービスとしてのコトが拡大するサイバー・フィジカル・システム(CPS)を前提として考える必要がある。現実世界と仮想世界をつなぐ重要技術であるAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)5Gが進化することによってモノとコトの相乗効果が加速していくと予想されるが、これが市場にどのような影響を与えるかについて、CX(顧客価値)の進化および顧客ニーズの変化の視点から考察する。>
 

新たな顧客価値の3つのキーワードとは?

 
 前回、これまでのITの進歩が様々な技術発展の相乗効果として新たな時代をつくってきたことを述べたが、これからの10年もまた新たな技術の相乗効果による価値創出が実現されていくであろう。

 2010年代後半のスマートフォンとクラウドコンピューティングの時代には、コンテンツ配信、SNSやe―コマースなど情報化による物理的な制約の開放が進んだ。これからの時代はあらゆる現実世界のモノがクラウドに接続され、接続されたモノから集積された多量の情報により仮想世界において多様なサービスとしてのコトが拡大し、そのサービスとしてのコトがまた現実世界のモノを通じて提供されていく。

 これをサイバー・フィジカル・システム(CPS)と呼び、現実世界と仮想世界をつなぐ重要技術として、AI、IoT、5Gなどが挙げられる。CPSは、新しいモノとコトの関係を築き、CX(顧客価値)、顧客ニーズに新たな影響を与える。

図_重要技術_4c
 
 ジョン・A・グッドマンはCPSにおける新たなCXをCX3.0として定義し、次の3つのキーワードが重要であるとしている。

 (1)多様性
 IoT技術の普及により、顧客に対して、様々な接点を持つことを意味する。例えば、スマートフォン、AIスピーカー、ウエアラブルデバイスなどを通じた新しい機能やサービスの提供がこれに相当する。

 (2)先読み
 人工知能技術の進化により、顧客ニーズを先取りしたサービスを提供することを意味する。例えば、状況に応じた設定や操作の自動化や、製品購入のタイミングを捉えたプロモーションへの応用などがこれに相当する。

 (3)全方位
 クラウド間連携により、顧客に対して全方位的にアプローチするチャネル戦略を指す。例えば、レシピサイト、ネットショッピングサイト、キッチン家電と連携し、食材の購入から調理までを支援することなどがこれに相当する。
 

個人が情報を発信する時代。好みに応じた選択ができるようになった

 
 個人が豊富な情報を容易に入手でき、また、情報を発信することが一般的になったことにより、個人がそれぞれの好みに応じた製品・サービスを自由に選択することが可能となってきた。

 (1)自分らしい暮らし
 個人に最適な環境、使いやすさを追求するとともに、「自由な時間」をつくり出すことの要求が高まっている。少子化、共働き世帯の増加から、多忙な生活を送る一方で、個人の時間を有効に使うという意識が広まってくる。

 (2)健康的な生活
 高齢化社会を反映し、医療に頼らず健康な生活を継続する要求が高まっている。幅広い世代においてライフステージに合わせた健康維持のニーズが高まってくる。

 (3)環境にやさしい生活
 自然災害の深刻化など地球環境の悪化の影響から個人が様々な生活の局面で、持続可能性を考慮した選択をする傾向が一層広まってくる。

図_進化_4c
 
 次回は、技術と市場の変化によって生み出される新しいビジネスモデルと、それに対応する新しい価値創出の考え方について述べる。

【用語解説】
◆IoT(Internet of Things) 
様々な機器やセンサーなどのモノがインターネットにつながって通信をすること。クラウドに集積されたモノのデータを活用することでCPSが構成され、新たなソリューションが実現されるようになる。

◆5G(5th Generation) 
第5世代移動通信方式のこと。4Gを発展させた「高速大容量」に加え、「低遅延」「多接続」などの新たな機能を持つ次世代の移動通信システム。

◆CX(Customer eXperience) 
製品やサービスに対して顧客が購入、利用、サポートのあらゆる局面で感じる体験価値のこと。1970年代の顧客の声を重要視する時代をCX 1.0、1990年代の顧客との関係をITにより管理する時代をCX 2.0とされている。

電気新聞2019年11月18日