これまで単体の製品として設計されてきた家電製品や設備機器がクラウドに接続され新しい機能の追加やサービスと連動が可能となるコネクティッド機器が普及し始めた。現実世界のモノがクラウドに接続され、クラウドにおいて多様なサービスとしてのコトが拡大することにより、新たな顧客価値やビジネスモデルが創出される可能性が期待される。新しい価値やビジネスの創出には、複数の技術の進化と普及が関与してきた歴史を振り返ることが重要である。
 

スマホ、クラウド、AI・・・。生活と情報の環境が急速に変化

 
 スマートフォン、パブリッククラウドの登場から約10年が経過し、人々の生活と情報に関する環境が急速に変化してきている。新しい情報技術により、スマートフォン上のソフトウエアはオンラインでダウンロードされ、データの処理はクラウド上の豊富な処理能力とメモリー空間によってなされることが増え、常に新たな機能やバグの修正が自動的に行われるようになってきた。また、クラウド上で処理をすることにより、様々なデータが収集され、それまで不可能であった人工知能(AI)による高度なビッグデータ分析を実施することで、さらに新たなサービスを生み出すことが可能となった。また、クラウド上のサービスは、複数の企業がクラウド間連携により、複合的なサービスを提供できる環境が構築された。

図_くらしを支えるソリューション_4c
 このような技術の進歩により、家電製品や設備機器がクラウドに接続されて新たなサービスを展開できるコネクティッド機器に普及の兆しが見えてきた。しかし、今後本格的な普及の鍵となるのは、ユーザーにとって質的に異なるメリットをどのように提案し、使ってもらえるかに尽きる。例えば、AIスピーカーによる家電の操作は、複数の操作を一言で実行できるメリットがあるが、そのための設定や使いこなしにはまだ高いハードルがある。
 

情報技術は10年周期、次の10年で克服されるものとは

 
 情報技術は、約10年周期でそれまでの生活を大きく変える進化と普及を遂げてきた。1990年代後半にはインターネットが一般ユーザーに開放され、世界中でウェブサイトが立ち上がり、それまでの個別に運営されていたパソコン通信サービスはすべてインターネット上のサービスにとって代わられた。インターネットの普及にはADSLやCATVによる常時接続という通信インフラの整備が大きく影響していた。通信インフラの発展は、クラウドコンピューティングの普及を後押しし、また、無線通信の高速化はスマートフォンの普及のベースとなっている。かくて、2000年代後半は、スマートフォンとクラウドコンピューティングにより、場所に依存しない真のモバイル環境が実現した。

図_ITの技術革新_4c
 モバイル環境での利用が拡大すると、持ち運べる端末の大きさの限界とユーザーインターフェースのための画面サイズとの間でトレードオフが発生する。スマートフォンのタッチパネル操作の普及により、限られたスクリーンサイズでの操作が受け入れられ、さらに、音声認識の精度向上によって音声による入力や操作が導入されたことで、このトレードオフが克服されてきた。

 音声認識技術は、2010年代後半にAIスピーカーという新たなデバイスとして普及が急拡大している。このAIスピーカーはコネクティッド機器のユーザーインターフェースとしての活用も今後期待されるところである。

 次回は、過去を踏まえ、今後重要となる技術の進化と市場の変化について考察する。

【用語解説】
◆パブリッククラウド
インターネット上に多くの計算機センターを置き、利用量に応じて有償でその計算機のハードウエアやソフトウエアの機能を提供するサービス。

◆パソコン通信サービス
インターネットが一般に普及する以前に主流であったネット通信サービス。専用ソフトと電話回線によりホストコンピューター上でメールやフォーラムなどを利用した。

◆クラウドコンピューティング
パブリッククラウドなどを利用することで、高価な計算機を保有することなく豊富なH/WやS/Wのリソースを活用し、複雑な処理を実現することが可能となった。

電気新聞2019年11月11日