複雑化する電力系統において、電力設備の保守管理や電気の品質維持にDX(Digital Transformation)が有効とされ、世界の電力会社が取り組みを加速している。しかし、DXは単なる設備のデジタル化ではない。事業内容や人材、組織のあり方など、企業のカルチャーを丸ごと見直していく取り組みであり、そこにはまざまな課題が横たわる。既存システムとの整合、人材の配置、大規模な投資に見合う効果をどのようなステップで具体化していくか、経営層のサポートは――。
電気新聞とSAS Institute Japan(SASジャパン)は、「2019 日米電力ワークショップ送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る」を10月29日、東京都内で開催した。昨年に続いて米サザン・カリフォルニア・エジソン社(SCE)からゲストを招き、関西電力の松浦康雄理事・送配電カンパニー配電部・情報技術部担任をコーディネーターに、日本の送配電事業者の幹部ら約30人との間で、「SCE社におけるDXの方向性と課題について――送配電部門での事例」(パート1)、「日米の取り組み事例から課題を抽出――マネジメントの関与、組織のあり方、人材育成、カルチャー」(パート2)をテーマに議論を重ねた。
その概要を3回に分けて本欄で紹介する。第1回はパート1の議論をまとめる。
※DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語。デジタル技術の活用などにより企業や社会システムがより良いモノへと変貌を遂げる概念(『まるわかり電力システム改革2020年決定版』より)
SCEはDXにどう取り組んでいるのか?
パート1では、先進事例として、米国SCE社のデジタルデザインチームを率いるマシュー・ピーコア氏が「SCE’S Digital Transformation Journey」をテーマに講演。同社のDXの取り組み内容やDX推進のカギとなる手法、体制の整備などについてプレゼンテーションが行われ、日本側の出席者と意見交換を行った。
ピーコア氏は、SCEがDXを強力に推進する背景として、所在地である南カリフォルニアはデジタルリテラシーが高い顧客が多く、電力会社に対しても期待値が高いとし、また経営トップのDXへの支持が強いことなどを説明。一方で、日本と同様、従来システムとの整合や規制当局との調整、人材獲得の難しさなどの課題もあると語った。
SCEではDX推進にあたり、重要なのはレガシー部門(送配電や営業・顧客管理などの現場組織)とIT部門のハイブリッド組織を設け、そこが中心となって、レガシー部門を巻き込む形で改革を進めているという。
また、システム開発についてもデザインシンキングやアジャイル手法によって、レガシー部門とのやりとりをしながら従来システムと整合をとっていくことが重要になっていると解説した。
その後のラウンドテーブルで行われた質疑では、日本の電力各社が抱える悩みなどが提起された。中でも、「レガシー部門に主体的にDXに関わってもらうには」という日米共通の課題について、組織のあり方や既存システムとの調和の方法など、日米での差異や同様の課題などについて、活発に意見交換が行われた。
次回はパート2前半の内容を紹介する。
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