中央管理者を必要とせずピア・ツー・ピア(P2P)方式で直接取引を可能にするのがブロックチェーン技術であり、ビットコインをはじめとする暗号資産のコア技術であるが、電力分野での応用も試行されている。太陽光発電の余剰電力をP2Pで別の需要家に取引する電力取引プラットフォームがその代表例であり、スタートアップ企業を中心に世界中で実証実験が行われている。今回から4回にわたり、電力分野でのブロックチェーン技術の取り組みや活用事例を紹介する。
地元産クリーンエネルギー市場が創設されたブルックリン
ブロックチェーン技術は中央管理者なしに安全に取引を行うことができ、取引の正当性を保証したり存在を証明したりできる特徴を活用し、広く産業への応用が試されている。エネルギー分野での応用事例が現れ始めたのは2016年。スマートメーターなどで計測した電力データをデジタルアセット化し、ブロックチェーンのプラットフォーム上で取引することから始まった。
米国のスタートアップ企業LO3 Energy(以下LO3エナジー)では、16年4月からニューヨーク州ブルックリンで、ブルックリン・マイクログリッド(Brooklyn Microgrid)というプロジェクトを開始した。本プロジェクトは、太陽光発電の余剰電力を同地域の住人とブロックチェーン技術を使用したプラットフォーム上で取引することが可能であることを実証するのが目的だった。
マイクログリッドという名前がついているが、自営線ネットワークを敷設したわけではなく、参加者宅にメーター機器を設置して取引を行うバーチャルなマイクログリッドと言える。本プロジェクトにより送配電網に流れる電気の物理的な流れが変わるわけではなく、計測した太陽光発電の余剰電力と需要家宅で計測された消費電力を照合させて市場取引が行われる。広域の卸売電力市場に対し、このような地域限定の市場をローカルエネルギー市場と呼んでいる。
プロジェクトが実施されたブルックリンは特に地元への愛着が強い人が集まっており、地域のクリーンエネルギーを推進するために数百人が参加した。このようにコミュニティーという切り口でローカルエネルギー市場を創設する動きは、今後、ブルックリン以外でも広まる可能性がある。
オーストラリアでも実現可能性調査
その一例として挙げられるのは、オーストラリアでの取り組みだ。オーストラリアの政府機関である再生可能エネルギー庁は、LO3エナジーやシーメンスなどの企業と協力し、「ラトローブ・バレー・マイクログリッド(Latrobe Valley Microgrid)」(こちらも自営線ではない)の実現可能性調査を行っている。
ラトローブ・バレーの実現可能性調査では、地元の酪農事業者、太陽光発電や蓄電池を持つ需要家、一般需要家と電気事業者が参加するローカルエネルギー市場の創設が、地域の参加者および電力システムに与えるメリットを分析する。このために約100軒の参加者が電力消費量データを提供した。メリットを確認できれば、数百軒規模のローカルエネルギー市場の創設が期待されている。
これらの取り組みの特徴は、単なるデジタル技術の展開ではなく、エネルギーという切り口で自分たちの地域をよくしていこうという地域ベースの活動であることだ。再生可能エネルギーや蓄電池などの分散型エネルギーリソースが普及するに従い、電力が最適に流通・取引される仕組みも変わるべきという考えに基づき、地域ベースでローカルエネルギー市場を創設する。この活動を通じて地域の構成員同士のつながりも深まれば、なお望ましい。
LO3エナジーは日本では丸紅とローカルエネルギー市場の可能性も含めて検討している。
電気新聞2019年6月10日
[参考]豪政府:ラトローブ・バレー・マイクログリッドの事業調査結果(英語)
https://arena.gov.au/projects/latrobe-valley-microgrid-feasibility-study/
https://arena.gov.au/assets/2018/05/latrobe-valley-microgrid-feasibility-assessment.pdf (PDF)