原子力NEWSがわかる2019
原子力NEWSがわかる2019

 原子力規制委員会が最新の審査基準や新知見への対応を要求する「バックフィット」の影響で、各社の原子力事業運営に先行き不透明感が漂っている。再稼働したPWR(加圧水型軽水炉)プラントは、新規制基準で設置が要求された特定重大事故等対処施設(特重施設)の完成が設置期限に間に合わず、再び停止に追い込まれる公算が大きい。規制委が地震や津波、火山灰などの新知見を取り込む動きも活発になっていて、各社は対応を求められている。

 新規制基準は、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓から地震や津波などの基準を強化し、シビアアクシデント対策も求める。新設・既設問わず全ての原子炉が対象で、それ自体がバックフィットといえる。
 
 ◇再び停止の可能性
 
 特重施設の設置も新規制基準の要求だ。設置期限は本体施設の工事計画認可から5年。それまでは経過措置期間で運転が認められているが、事業者は今年4月、期限内に施設を完成できない見通しを表明。規制委は同月、特重施設が期限内に完成しなければ原子炉を停止させるとした。

 バックフィットの事例には、規制委が国内外の新知見や事業者の新たな提案を取り入れたものも存在する。高エネルギーアーク損傷(HEAF)対策、代替循環冷却系の設置などはそれに該当する。

 最近は、規制委が自然事象に関する新知見を取り込む動きも相次いでいる。規制委は今月3日、関西電力高浜発電所について、警報が発表されない可能性のある地滑り津波を考慮した原子炉設置変更許可申請を行う必要があると判断した。インドネシアで昨年、噴火による津波が発生したことへの対応だ。高浜は警報が出ない津波の波源に「隠岐トラフ海底地滑り」を考慮する必要がある上、警報発表後に取水路防潮ゲートを閉じる運用を行っているため、個別対応を迫られた。

 規制委は高浜3、4号機のみが稼働している現状では対策を直ちに講じる必要はないとしたが、審査で地滑り津波の対策完了が確認されるまでは1、2号機の再稼働を認めない方針。関電は9月末までに変更申請を行い、年内に許可を得るべく審査に取り組むとしている。

 規制委は6月にも、大山火山(鳥取県)の噴出規模に関する新知見を踏まえ、関電に3発電所の原子炉設置変更許可申請を行うよう命令している。噴火が差し迫った状況でないため、原子炉停止は求めていないが、関電は12月27日の期限までに火山灰層厚の想定を引き上げた変更申請を行う必要がある。
 この大山火山の新知見は、他サイトへも波及しそうだ。中国電力島根原子力発電所2号機と日本原子力発電敦賀発電所2号機は、現在進行中の新規制基準適合性審査の中で、新知見を踏まえた火山灰層厚評価を行うことになる見通しだ。
 
 ◇追加工事に数年も
 
 今後の注目は「震源を特定せず策定する地震動」の検討チームが作成した新たな審査モデルだ。地震の専門家も入った検討チームは、近く規制委に報告書を提出する。規制委は新たな審査モデルを規制に取り入れ、地震動の再評価を各社に指示するとみられる。

 規制委の更田豊志委員長は7月10日の会見で、新たな審査モデルの影響を受けそうな発電所として、九州電力玄海、川内原子力発電所、四国電力伊方発電所に言及した。新規制基準適合性審査で地震・津波側の議論が一段落した東北電力女川原子力発電所2号機や中国電力島根2号機、日本原燃の使用済み燃料再処理工場なども、地震動の再評価を求められる可能性があり、規制委の判断が注目される。

 事業者は、仮に追加工事が必要になった場合の所要期間が「6、7年を超える可能性もある」とし、十分な猶予期間を求めている。許認可申請や審査にかかる期間を予見するのは難しい。今後、規制委が何らかの対応を求めるにせよ、経過措置については慎重に検討することが必要だ。

電気新聞2019年7月23日