大規模集中型電源の投資が難しくなる一方で、変動型電源である再生可能エネルギー発電の配電系統への連系増加に伴い、電力ネットワークにおける系統制約が顕在化しつつある。今回は、小規模供給力を周波数制御体系に組み込んだ、米国テキサス州の系統運用機関であるテキサス電力信頼度協議会(ERCOT)とイギリスの送電会社ナショナルグリッドの事例を紹介する。
油田のポンプやガスパイプライン圧縮機も調整力――テキサス州
テキサス州のERCOT系統では非同期型の再生可能エネルギー発電のシェアが拡大しており、慣性力の低下への懸念が考えられる。これに対し、ERCOTでは多様な一次調整力の商品設計を通じて、周波数の安定化に取り組んでいる。
ERCOTでは他州と同様、一次調整力の調達も行っているが、それと別の商品を2種類調達している。
1つ目は低周波数負荷遮断であり、標準周波数60ヘルツのところ59.7ヘルツまで周波数が低下した際に0.5秒で負荷遮断を行うものである。低周波数負荷遮断に参加している需要家には工場も含まれているが、油田のポンプやガスパイプライン圧縮機なども含まれている模様であり、テキサス州ならではの取り組みと言えよう。
北米電力信頼度協議会(NERC)も、2018年の長期信頼度評価報告書で、この低周波数負荷遮断が周波数安定化に貢献していると評価している。
2つ目は高速周波数応答であり、59.85ヘルツまで低下した場合に0.25秒で応答するものであり、2018年に提案され2020年に導入が開始される予定になっている。
1秒以内に応答する調整力はすべて蓄電池に――英国
類似の枠組みはイギリスの送電会社ナショナルグリッドでも採用されており、拡張型周波数応答(Enhanced Frequency Response)という一次調整力が該当する。17年から調達が開始され、標準周波数が50ヘルツのところ、プラスマイナス0.05ヘルツ(サービス1)またはプラスマイナス0.015ヘルツ(サービス2)を不活性帯とし、それを超えるプラスマイナス0.5ヘルツ内の周波数変動に対して1秒以内に自動応答するものである。
入札には発電機やデマンドレスポンスの参加もあったが、全て蓄電池が落札している(落札容量は合計で20万1千キロワット、全てサービス2)。従来の一次調整力は10秒~30秒で応答するという設計であったが、より短時間で応答することで周波数の安定化を図るものである。
このほか、従来、49.7ヘルツを閾値(しきいち)として応答していた一次調整力の商品を49.5ヘルツから40.8ヘルツの範囲で複数段階化する形への変更を検討しており、一次調整力の商品設計の多様化を進めている。
再エネにも一次調整力性能の保持を義務化したテキサス州
非同期型の再生可能エネルギー発電のシェアが高まると共に生じる電力系統の慣性力低下に対して、高速で周波数の状況を検知・応答するものをデジタル慣性力と呼ぶ向きもあるようだが、ERCOTおよびイギリスのナショナルグリッドの事例はそれに該当する。
ERCOTでは08年以降、古い設備を除き全ての風力発電と太陽光発電に疑似一次調整力機能の装備を義務化する措置が取られている。米国全体でも、18年に連邦エネルギー規制委員会のオーダー842で、太陽光発電や風力発電にも一次調整力の性能を備え維持することが義務付けられた。
オーダー842には機能の装備に対する補償措置が明記されていないため、発電事業者からの反発で合意が得られていない地域も多いが、一部地域では疑似一次調整力機能の装備が発電所への連系要件に加えられた模様である。
こうした太陽光発電や風力発電の高性能化も進めつつ、一次調整力の多様化にも取り組むことが周波数の安定性維持に貢献すると考えられる。
一次調整力の多様化が必要に
我が国では北海道でのブラックアウトを契機として風力発電と太陽光発電で周波数低下リレーでの整定値が標準値より高く設定されており、これが大規模電源脱落時の影響を増幅させることが分かり、議論を呼んだところである。また米国で進められている太陽光発電や風力発電の高性能化への関心も高まった。
しかし太陽光発電は規模の小さなものも多く、どこまで高性能化を求めるのか難しい面もあろう。そうした面を考慮するとERCOTやナショナルグリッドで取り組んでいる一次調整力の多様化も同時に進めていく必要があると考えられる。
【用語解説】
◆慣性力
火力、水力、原子力などで使用されている同期発電機は、回転子が運動エネルギーを蓄えており、系統故障時に瞬時的に発生する電力の過不足分を吸収または放出する。この機能を慣性力と呼ぶ。系統事故の際には、供給力不足による周波数低下に対し、まず慣性力が働き、その後、ガバナフリー(GF)などの各種制御が働く。
電気新聞2019年5月27日