大規模集中型電源の投資が難しくなる一方で、配電系統への変動型再生可能エネルギー発電の連系増加に伴って系統制約が顕在化しつつある。今回は小規模供給力(フレキシビリティー)を配電系統における変電所混雑管理に使用するプロジェクトについて紹介する。
 

変電所の容量超過を解消するシステムを実証。再エネ接続の拡大も可能に

 
図1_Grid-controlプロジェクト_4c

 ドイツのGrid―controlプロジェクトは、ドイツ経済エネルギー省の基金に基づき、2015年7月から18年9月までEnBWの配電会社である「Netze BW」社が中心となり実施したプロジェクトである。

 配電会社は前日に15分単位で系統制約スケジュールを計算、変電所の混雑状態を市場参加者に通知し、アグリゲーターはプロシューマーと契約して制御シグナルを通知し混雑解消するものである。30カ所の二次変電所、60カ所の再生可能エネルギー設備、5カ所の蓄電池、EV充電所、制御可能な変圧器で実証を実施した。

 同プロジェクトは4つのシステムで構成されている。1つ目は需要家がフレキシビリティーを提供するプロシューマーとなり運用するビルエネルギーマネジメントシステム(GEMS)、2つ目は市場参加者向けに提供されるフレキシビリティーマネジメントシステム(FMS)、残りの2つは配電系統運用者(DSO)の翌日の予測値に基づいて容量制約の管理を行う系統負荷マネジメントシステム(GLMS)およびリアルタイムの系統情報に基づき配電系統を管理する地域エネルギーマネジメントシステム(REMS)である。DSOのGLMSによる計算結果に基づき、翌日の変電所の混雑予測をグリーンシグナル(混雑なし)およびイエローシグナル(混雑可能性あり)としてFMSを通じてプロシューマーに通知し、当日のREMSにより変電所で混雑発生と見込まれた場合にレッドシグナル(混雑発生)をプロシューマーに通知して混雑解消行動を取らせる仕組みである。
図2_変電所の容量管理と制御_4c
 プロジェクトでは変電所の容量超過(=配電混雑)に対して蓄電池や再生可能エネルギー発電出力制御を通じて変電所の混雑解消が試験された。こうしたシステムの導入により、配電系統へ接続可能な再生可能エネルギー発電の容量を拡大することが可能としている。フレキシビリティーの調達方法についてはプロジェクトでは検討されていない。
 

欧州におけるDSOの混雑管理市場はスポット市場と並行する

 
 欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO―E)、配電系統運用者の協会である欧州地域エネルギー企業連合(CEDEC)、欧州配電運用者協会(EDSO)、欧州地域配電・配給会社の声(GEODE)、および電力会社の業界団体Eurelectricが19年3月に公表した送電・配電における混雑管理と需給バランス維持に関するシステムについて整理したTSO―DSOリポートでも、送電系統運用者(TSO)の混雑管理が、ゲートクローズ以降のリアルタイム運用の領域まで許容されているのに対し、DSOの混雑管理は当日市場のゲートクローズで調達終了と整理されており、欧州ではDSOの混雑管理市場の扱いはスポット市場と並行するものと理解されている模様である。

 そうした考え方を踏まえると、DSOは混雑発生予測に基づき、前日段階ないし当日市場のゲートクローズまでに混雑管理に必要なフレキシビリティーを調達することが求められると考えられる。

【用語解説】
◆ゲートクローズ
発電事業者、小売電気事業者などの系統利用者から系統運用者へ提出する需給計画の締切のこと。卸電力取引所における取引もこの時点で停止する。新たな電力システムにおいては、ゲートクローズを実需給の1時間前に設定している。

◆リアルタイム運用
ゲートクローズ後、系統運用者が、市場からの調達や入札などにより供給力を確保し、需給調整や周波数維持を行うこと。ゲートクローズ後の市場を需給調整市場といい、日本では2021年度から段階的に運用を開始する予定。

電気新聞2019年5月20日