大規模集中型電源の投資が難しくなる一方で、配電系統への変動型再生可能エネルギー発電の連系増加に伴って系統制約が顕在化しつつある。欧州では需給運用・送配電系統混雑解消に活用できる小規模供給力をフレキシビリティーと呼び、これをどのように使っていくかが課題となっている。今回は欧州で検討されている市場型の取引プラットフォームを紹介する。
 

配電系統の混雑解消は系統増強ではなく運用で

 
 電力供給体制は、送電系統に連系している大規模集中型発電中心の供給体制から、将来的には配電系統に連系する小規模分散型供給力(発電機や需要側資源)の割合が高まる体制に移行すると考えられている。その際に必要となる系統増強投資の回避に向け、小規模供給力を調達するための市場の仕組みを作る、という考え方もあり、実際に再生可能エネルギーの大量導入で先行している欧州で始まっている。

 再生可能エネルギー発電の接続は配電会社で行われることが多いが、これまでは変電・配電設備の不足に対して系統増強で対応するというのが基本的考え方であった。しかし、先進諸国では人口減少や電力需要の低迷、配電料金の上昇圧力を受け、いたずらに配電系統増強を行うのではなく、運用で対処すべきだとの意見も見られるようになり、「配電混雑」という新しい概念が登場しつつある。
 

小規模分散型供給力をフレキシビリティーとして活用する

 
 実際に小規模分散型供給力を需給運用や送電混雑解消に用いようとした場合、配電系統内に混雑が存在するケースでは、送電系統側での混雑地域における小規模分散型供給力の活用が難しくなるため、送電系統運用者(TSO)、配電系統運用者(DSO)、小規模分散型供給力(フレキシビリティー)を集めて提供するアグリゲーターが参加する情報共有と市場プラットフォームの構築が求められる。

 現在、配電系統運用者が利用可能な取引市場は規制上でも認められていないため、単なるコンセプト設計や実証事業にとどまっているが、配電系統制約の拡大と共に実現に向けた動きが加速化すると考えられる。その一方で、中周期の風力が主な変動電源である欧州では、当日市場のインバランスの時間区分や二次予備力(日本で検討されている需給調整市場の商品条件では二次調整力①に当たる)、三次予備力(同じく二次調整力②及び三次調整力①)の決済時間区分を、15分単位とする方向で検討が進められている。そのため有効なフレキシビリティーとなる小規模供給力の活用は、各市場間での取り合いとなりかねない様相を呈し始めている。
 

オランダのプロジェクトが提案するプラットフォームとは?

 
図1_バラバラ_4c
図2_共通_4c
 フレキシビリティー取引の仕組みを検討するオランダのUSEF(ユニバーサル・スマート・エナジー・フレームワーク)プロジェクトでは、自由市場と規制市場及び活用方法を踏まえた取引プラットフォームのコンセプト設計の検討を行っている。(1)バランシンググループ(BG)の同時同量活用(2)TSOの需給調整(3)TSOの送電混雑処理(4)DSOの混雑処理――という4つの形態で利用可能なプラットフォームを検討しているのだが、ここでは、自由市場や規制市場の統一市場プラットフォームを介して、小規模供給力を自由市場に属するバランシンググループによる購入、そして規制市場に属するTSO・DSOによる購入を行う仕組みの提案を行っている。

 TSOの需給調整市場はEU大の共通プラットフォームのプロセスに参加する予定になっていることから、欧州でこうした統一市場というコンセプトと整合的に実現できるか疑問が残るが、関係性の整理という面では参考になるだろう。

【用語解説】
◆日本における需給調整市場
現在、電力広域的運営推進機関で検討中の需給調整市場の商品条件には、応動時間10秒以内の一次調整力、同5分以内の二次調整力①(LFC信号)、二次調整力②(EDC信号)、同15分以内の三次調整力③、同45分以内の三次調整力④がある。

◆USEF
ABB、IBM、オランダのエネルギー関連事業者Alliander、DNV GL、Essent、Stedin、ITベンダーのICTオートメーションの7社によって設立された非営利団体。統合されたスマートエネルギーシステム構築に向け、2015年から様々なプロジェクトを実施している。
USEFのURL:https://www.usef.energy

電気新聞2019年5月13日