電力デジタルイノベーション、中でも蓄電池、電気自動車(EV)、デマンドレスポンス(DR)などを使った送配電ネットワークの安定化やリスクマネジメントの多くは、規制当局の巧みな規制やコスト回収によって促進されている。ここでは米国ニューヨーク州政府と英国Ofgem(Office of Gas & Electricity Market=電気・ガス市場庁)の事例から規制する側の戦略とデジタルビジネス上の波及効果について見てみよう。
 

政策によりV2X関連ベンチャーが集積するカリフォルニア州

 
 電気自動車のV2Xビジネスが、実は配電設備健全化を狙いとした規制当局のボーナス支払いによって成り立っている、という事例はこの連載の中で紹介したが、結果的に米カリフォルニア州はEVのサービス事業者、充電関連機器や蓄電池制御のベンチャー企業が数多く成長し、世界中から電力デジタル分野への投資資金が集まって、この種のベンチャーの集積地となっている。送配電安定供給のための苦肉の策が電力デジタルイノベーションを促進していることになる。

 

ニューヨーク州と英国の、ベンチャー活用の試み

 
図1_REV_4c

 同じようにネットワーク規制当局が送配電デジタルイノベーションを促進している事例を2つ挙げよう。

 一つは有名なニューヨーク州のREV(リニューアブル・エナジー・ビジョン)である。これはニューヨーク市内の需要急増地域などに対して需要側資源、特にビル暖房用プラントを応用したCHP(分散型発電)や蓄電池、電気自動車、需要削減型DRをプラットフォーム化し、モノのインターネット(IoT)でうまく制御することでピーク対応変電投資を回避し、電力コスト全体を削減する試みである。

 図1を見ると、プラットフォームを構築するのは地元電力会社(送配電と規制小売り料金を持つUtility)であるコン・エジソン(Consolidated Edison)社である。同社は需要側資源をプラットフォーム化することで、本来するはずだったピーク時間帯にDRや自家発増発を投入し、ピーク発生を回避し、安定した配電設備運用を継続することともできる。またビジョンとしてはプラットフォーム仲介料金を取り、新しいビジネスをすることも考えられる。

 また規制当局は回避できた投資分の電気料金の値上がりを避けることができるとともに、多くの需要側資源プレーヤー(蓄電池、EV、DR)を呼び込み、域内のエネルキー関連イノベーションを促進することも恐らく狙いにしている。

図2_プロセス_4c
 一方、英国は、前回ネットワーク料金回収の際に説明したようにネットワーク料金の別枠として一種のイノベーション枠を持っている。例えば系統運用者であるナショナルグリッド社は、電力ユーザーが設置している大型蓄電池を風力増加対応や大規模系統事故に対応した緊急周波数調整力として活用するための超高速枠(EFR:Enhanced Frequency Response)を規制当局であるOfgemに申請し、費用回収を認められている。EFRは「給電指令から1秒以内に反応」という日本やドイツの調整力調達にはないものであり、さまざまな蓄電池ベンチャーが登場している欧州で、それらのイノベーションを試してみようとするナショナルグリッドとOfgemの考え方が見て取れる。
 

送配電事業者には提案力・企画力が必要に

 
 同時に送配電事業者には提案力・企画力も求められる。図2はニューヨークと英国のコスト認定プロセスを示したものだが、どちらもメニューや方針の提示を受けて、送配電事業者が提案、細部設計し、新たなテクノロジーに挑戦していることが分かる。規制当局と対話し、自ら新機軸を打ち出すことも送配電事業者の新しい使命になりつつある。

電気新聞2019年4月15日

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