ドイツ Grohnde原子力発電所  photo by Wolfgang Stemme from Pixabay
ドイツ Grohnde原子力発電所  photo by Wolfgang Stemme from Pixabay

 先進国の原子力発電容量がこのまま減れば、気候変動防止に向けた国際目標の達成やエネルギー安全保障が脅かされる――。

 国際エネルギー機関(IEA)が5月末に公表した報告書で、こう警鐘を鳴らしている。欧米や日本、韓国など先進41カ国が運転期間の延長や新設をしないと、2040年までに設備容量は約65%減少すると指摘。代替の火力発電や送電網の整備が必要になり、40年までに1兆6千億ドル(約176兆円)の追加投資がかかることに加え、二酸化炭素(CO2)排出量も約40億トン上振れすると試算した。

 報告書では、脱炭素化や輸入燃料への依存度を下げる観点から、原子力維持の必要性を訴えた。IEAは原子力の活用を選択している先進国に対し、新設を実現する資金調達スキームの整備や、建設期間の短い小型モジュラー炉(SMR)など新型炉の設計、人材と技術の維持、安全運転の確保に向けた規制の見直しなど、8項目の取り組みを提言した。

 報告書は、設備の経年化や「卸電力価格の下落」といった経済的理由による廃炉が先進国で増える傾向にあると指摘し、運転期間の延長や新設を行わないと、18年時点で2億8千万キロワットある設備容量が40年には1億キロワットを割り込むと見通した。

 運転期間延長にかかるコストは、太陽光発電や風力発電の新設と比べても「十分に競争的だ」と評価した。発電にかかる全コストを生涯の発電量で割る評価指標「LCOE」で比較すると、米国や欧州での運転期間延長は千キロワット時当たり換算で40ドルだが、太陽光や陸上・洋上風力の新設は運転延長を上回る50~120ドルだった。原子力プラントの新設は同100ドル程度。新設を進めるには価格保証や長期契約などの政策措置が必要だとした。

 原子力の代替電源に再生可能エネルギーを選んで脱炭素化を進めることは可能だが、特別な努力が必要だと指摘。より大量の設備容量と多額の設備投資が求められるとした。

電気新聞2019年6月4日

IEA報告書「Nuclear power in a clean energy system」
https://www.iea.org/publications/nuclear/