溶融金属のブロック加工


◆「廃炉専業」生かし効率化

 米国で放射性廃棄物の管理や原子力発電所の廃止措置を手掛けるエナジー・ソリューションズ(ES)が、日本原子力研究開発機構(JAEA)再処理施設に使用済み燃料を輸送するのに使われた金属キャスクを溶融し、原子力関連施設向けの遮蔽ブロックとしてリサイクルに成功した。日本で発生した低レベル放射性廃棄物のうち初めて海外輸出された大型金属で、除染した金属資源として再利用される。リサイクルを手掛けるES子会社は昨年、欧州企業から8千トンに及ぶ大型金属リサイクルを受注しており、国際事業の柱として軌道に乗りつつある。

 リサイクルされたのはJAEAが保管していた金属製の「HZキャスク」6基、計600トン。東海再処理施設から4基、新型転換炉原型炉「ふげん」から2基が搬出された。大型金属のリサイクル事業はES社が手掛けた。2023年以降の同事業は子会社のSUVAが独立して担っている。

 キャスクを運んだ船は23年末にルイジアナ州ニューオーリンズ港に到着。はしけに移し替えてミシシッピ川をさかのぼり、テネシー州メンフィスにある同社の加工施設へ運び込まれた。同施設で除染・解体した金属は同州ベアクリークの処理施設の電炉でスクラップとして溶融。型枠に流してブロックに加工した。加工品は、米エネルギー省ブルックヘブン国立研究所(ニューヨーク州)などの米国内の研究施設のほか、大強度陽子加速器施設(J―PARC、茨城県東海村)といった国内施設でも遮蔽ブロックとして再利用される見通しだ。

 ◇受注に弾み

 HZキャスクのリサイクルを実現したES社のコリン・オースティン国際グループ社長は「日本の事業者と協力して実現できたことが財産」と胸を張る。

 日本では23年に外為法改正により、蒸気発生器(SG)、給水加熱器、輸送・貯蔵用キャスクの大型金属について、有価物としての再利用を条件に輸出可能になった。ES社は今後増加が見込まれる日本国内の廃炉市場での大型金属リサイクル受注に弾みを付けたい考えだ。

 ◇欧州で好調

 SUVAは24年、独仏企業から大型金属のリサイクルを単年で合計8千トン、新規受注した。昨年11月にSGやキャスク24基を受け入れたほか、キャスク13基の追加受け入れを予定する。1996年以来、海外から合計7千トン以上の大型金属を受け入れてきたが、HZキャスクのリサイクル以降も受注を順調に伸ばしている。

 欧州からの発注増は「SDGs(持続可能な開発目標)の重視、金属を放射性廃棄物として廃棄しないことによるコスト削減が背景にある」とオースティン社長は説明する。処理コストが安い米国ではリサイクル需要が伸びない傾向があるが、「金属の再利用という面に焦点を当てれば米国でも事業化は可能だろう」とみる。鉄・非鉄金属のいずれも、脱炭素の観点からリサイクルの優位性を強調する。

 日本の市場でも今後、SGも受け入れ候補とみている。国内の原子力発電所敷地内に現在保管されているSGは30基以上。オースティン社長はSG1基で「鉄なら自動車200台分、ニッケルは電気自動車100台分を取り出せる」と見積もる。

 廃棄物管理・廃止措置の専業会社がリサイクルを手掛ける利点は、電力会社が廃炉や放射性廃棄物のリサイクルを直接担うよりもコストを抑えられ、効率的に処理ができる点だ。ザイオン原子力発電所の廃炉に向けた積立資金が不足していたエクセロンはES社と共同会社を設立して廃炉事業を切り出した。

 汚染金属の処理も事業者が直接担うには技術者や設備のコストがかかる。オースティン社長は「廃止措置は誰がリスクを担うかが重要。当社のように専業会社が請け負う方が早く進む」と強調する。

 電気新聞2025年2月10日