◆保安林など除外/電力需要増も…市町村足踏み
北海道の市町村が再生可能エネルギー導入の促進区域を設けるに当たって、除外すべきエリアを示した道の「環境配慮基準」。陸上風力発電の導入に「ブレーキをかける」として、業界や道内の市町村が懸念を募らせている。全国トップクラスのポテンシャルを持つ北海道の再エネを活用したGX(グリーントランスフォーメーション)投資により、産業振興を図ろうとしている経済産業省からは、道の環境配慮基準が「GX投資に冷や水を浴びせかねない」と危惧する声が上がる。(民直弘)
電力消費量が大きいデータセンター、半導体工場の立地が進む北海道の電力需要は、これから伸びていくと予想される。電力広域的運営推進機関の見通しでは、北海道の需要電力量は、2024年度を基準にすると34年度に1.54倍へ増加する。この伸び率はエリア別トップで、2位の東京(1.35倍)を大きく引き離した。
国は、風力や原子力などの脱炭素電源近くにデータセンター立地を促し、急増する電力需要を賄っていきたい考え。道内では昨年、石狩湾新港洋上風力発電所の再エネ電気で、データセンターを運営する取り組みも始まっている。
経産省は昨夏、北海道で再エネを活用したGXを進めるチームを立ち上げ、資源エネルギー庁の風力事業推進室長を「北海道GX推進官」に併任した。同省幹部の1人は「道の基準で再エネ導入にブレーキがかかれば、政策の前提に狂いが生じてしまう」と指摘する。
◇経過措置も
昨年11月に北海道が地球温暖化対策推進法に基づき策定した環境配慮基準は、市町村が地域脱炭素化促進事業として太陽光や陸上風力の促進区域を設定するに際し、除外すべきエリアとして保安林などを挙げる。道内で陸上風力の適地は山林に広がっているが、道の環境配慮基準に基づき、保安林など除外すべきエリアに促進区域は設けられない。
道は市町村が促進区域設定に向けて検討する期間を確保するため、5月10日を期限とした経過措置を設けた。促進区域を検討するエリアや設定に向けたスケジュールを記した報告書を提出した市町村については、本来なら道の環境配慮基準に基づき除外される保安林などに促進区域を設けられる。促進区域以外での開発はこれまで通り、個々の法令で定める手続きに沿って保安林の指定解除などが認められれば、実行できる。
一方、風力導入に積極的な道内の自治体は今後、環境配慮基準によって風車の設置がより困難になるとみる。「道が促進区域に含めることが適切でないと言っている保安林などで開発を認めれば、その市町村は『自然を破壊してまでも導入するのか』という目を向けられる」と担当課。国は第7次エネルギー基本計画で再エネ導入拡大を掲げるが、その目標実現から「遠ざかってしまう」と指摘した。
◇募る危機感
道内でのGX投資に対する事業者の意欲も低下している。大手事業者は「道の基準で促進区域から除外すべきとされるエリアで風車を建てるのは、地域の反対を受けやすく、投資リスクが高まった。市町村も除外エリアでの計画をなかなか認めてくれないだろう」と危機感を募らせる。
市町村が再エネ促進区域を設定する環境省の制度は22年度に始まった。制度開始から3年を迎えたが、道内約180市町村のうち陸上風力促進区域を設けたのはわずか2町(2月末時点)。全国でも陸上風力の促進区域は5市町村しかない=表。

道が設けた期限の5月10日以降、促進区域が道内全域へ一挙に広がり、風車を立地しやすくなるとは「期待していない」と事業者側は冷ややかにみる。風力導入のポテンシャルが大きい東北地方の北部に、北海道から投資の軸足を移そうとする動きも出ている。
電気新聞2025年4月17日