◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

◆連系線へ活用可能

 多端子間で電力を授受するシステムは「陸上変換所を複数設置することで、連系地点の選択性に優れ、地域間連系線としての効果も期待できる」と、東電HD経営技術戦略研究所の太田文彦主幹研究員は指摘する。電力消費が多いデータセンターや次世代の半導体製造工場の立地で、北海道の電力需要がこれから増えていった場合や、大規模な自然災害の発生時に、「首都圏の余剰電力を送ることも可能になる」と話す。

 どちらか一方向にしか電気が流れない2端子直流送電に比べ、複数の交直変換器間で電気の流れを変化させる多端子直流送電は、複雑な「潮流制御」が求められる。プロジェクトで重電メーカーが製作した制御盤と交直変換器を接続し、潮流制御のシミュレーションを2023年度に行ったところ、狙い通りの結果を得られた。

 海底直流送電ケーブルで経年劣化や漁具、いかりなどによる損傷といった事故が起きた場合、大規模な停電を招かないように交直変換所間の事故区間を高速で切り離す保護制御技術の開発も鍵を握る。事故発生から0.01秒以内に直流遮断器で正確に切り離す技術が求められる。事故の検出装置と直流遮断器を開発し、23年度までのシミュレーションの結果、実機導入のめどが立った。

 多端子直流送電システムの実用化により、離島へ送電する用途も期待される。離島では発電に重油を使うなど、燃料の輸送費も含めてエネルギーコストが高い。海底直流送電ケーブルから分岐した送電線で、洋上風力による電気を島に供給できる。安価な電気の供給や電力融通などにも活用できる「多用途多端子直流送電システム」の技術を開発し、将来的な導入を目指している。

 課題もある。事故発生時に事故区間以外の送電線や変圧器が過負荷となる場合、電力会社間の電力融通と、洋上風力発電事業者が都市部に送る電気のどちらを優先して送電するかなど、ルールが必要となる。今後の多用途多端子送電の社会実装に向け、送電システム整備費用を国、事業者でどう負担するかに加え、合理的・効率的な利用ルールについても議論が必要となる。

電気新聞2025年1月8日

1 2 3 次へ »