中国電力が火力・原子力発電所で導入している幼生検出キット
中国電力が火力・原子力発電所で導入している幼生検出キット

 発電所の取水路に付着する海洋生物への対策技術が、カキ養殖の改善につながる可能性が出てきた。広島県は昨年12月、カキの生育環境をリアルタイムに把握できるシステムの実用化を目指す実証事業を開始。そのコア技術として、中国電力とセシルリサーチ(兵庫県姫路市、山下桂司社長)が共同開発したムラサキイガイなどの幼生を検出する技術をカキの幼生の検出に応用する。

 カキ養殖は、初めに海に沈めたホタテ貝の殻に浮遊しているカキの幼生を付着させる。この工程は採苗(さいびょう)と呼ばれ、生産量を左右するとされるが、近年は採苗率が不安定な状態が続く。両社はカキ用の検出技術を新たに開発することで、採苗率の向上を図る。
 
 ◇迅速に検出可能
 
 両社は、2007年にムラサキイガイやフジツボなどの幼生検出キットを開発・商品化した。海水中のプランクトンをサンプル採取し、海洋生物のタンパク質と抗体が結合してできる赤いラインで幼生の有無を識別する。10分程度で検出でき、特殊な装置も不要だ。

 発電所の取水路に大量に海洋生物が付着すると流水障害が起き、運転効率低下を招く。このため、停止中の清掃作業や運転中の塩素注入などで付着生物を除去している。中国電力は原子力・火力発電所の一部に幼生検出キットを導入。付着前の幼生の段階で対策を打てるため、除去作業の効率化につながっている。
 
 ◇AI組み合わせ
 
 広島県は、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を活用し、地域の課題解決を目指す実証事業「ひろしまサンドボックス」を今年度から開始。中国電力などは、その事業の一つとなる「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」に参加し、AIを組み合わせたカキの幼生の検出技術の開発に着手した。

 実証事業は、広島県江田島市のカキ養殖場で行われている。ドローンに搭載したカメラで、カキの幼生が多く生息する場所や潮流などを観測。海上ブイや養殖用のいかだにセンサーを設置して、海水温度や塩分濃度などを遠隔監視する。

 そのデータをクラウド上に蓄積し、AIが分析・予測した上で採苗に適した場所や時期を養殖業者に通知。カキの生育環境をリアルタイムに把握し、養殖のノウハウの可視化につなげる。実証は20年度まで行う予定だ。

電気新聞2019年2月8日