2018年6月に、移動通信の標準化団体である3GPPの標準化会合において、5G無線規格(NR=New Radio)の作成が完了した。メーカーおよびキャリアはこれを受けて製品開発、サービス開発を開始している。最新の情報では2019年中にもサービスが開始される見込みとのこと。この規格では高度なアンテナ技術や高周波数の利用等の新技術が採用されている。一方、普及が進み始めたLPWAの技術もIoTの無線方式として、第5世代(5G)と併用されていくと考えられる。
 

Wi―Fi、LPWAも組み合わせるフレキシブルさが特徴

 
 前回解説した、超高速(eMBB)、多数同時接続(mMTC)、超低遅延(URLLC)の利用シナリオを実現する5G無線規格(NR)では、数々の新しい技術が採用されている。

 最も特徴的なのが、高度なアンテナ技術である。4Gでも「MIMO」という複数アンテナを使った技術が採用されていたが、5Gではさらにそれを発展させて、「Massive MIMO」という技術の採用が見込まれている。これは、多数のアンテナ素子を使用して、それを協調動作させるものである。

図_MassiveMIMO_4c

 例えば、基地局では最大256、端末で最大32の素子を活用することが考えられている。この多数の素子のビームを任意の方向に送り、あるユーザーにビームを集中させることでそのユーザーを高速化させたり、反対に、輻輳(ふくそう)する場合などには複数ユーザーに分散させることで、1つの基地局で通信できる人数を増やす、といったことが可能だ。これには、高い周波数帯におけるアンテナ素子の小型化技術と、多素子アンテナの位相や振幅制御により指向性を持たせたビームを作り出すビームフォーミングと呼ばれる技術が使用されている。

 また、5Gでは、ネットワークの構成にも新技術が採用される。既存の低い周波数帯を使用したマクロセル基地局と高い周波数帯を使用したスモールセル基地局、さらに小エリアのスポットセル基地局を組み合わせて使用する。また無線技術も、5Gだけでなく、4GやWi―Fiも組み合わせて使用し、フレキシブルなネットワークを構成する。この技術はヘテロジニアス・ネットワークと呼ばれる。
図_ヘテロジニアスネットワーク_4c

 

2019年中にサービス開始、2020年には本格展開

 
 一方で、これらの技術や、高速化・大容量化の実現は、新しい高い周波数の使用が前提となっている。

 総務省は2018年11月、5G導入のための周波数割り当てに関する開設指針案を公開した。これによると、サービスを全国で提供する事業者向けに、3.7ギガヘルツ帯、4.5ギガヘルツ帯、28ギガヘルツ帯に合計10の割当枠を用意している。3.7ギガヘルツ帯が100メガヘルツ幅×5の5枠、4.5ギガヘルツ帯が100メガヘルツ×1の1枠、28ギガヘルツ帯が400メガヘルツ幅×4の4枠だ。総務省では、2019年中のサービス開始、2020年の本格展開を予定している。
 

LPWAはIoT分野に活用の場

 
 ところで、IoTの無線インターフェースでは、LPWA(Low Power Wide Area)と言われる方式が、まさに普及しようとしている。エネルギー部門でも、Wi―SUNでのスマートメーターの情報収集や遠隔制御への応用、LoRaを使用した設備保守での応用などが始まっている。

 5Gがスタートしたときに、LPWAはどうなるのかとよく聞かれるが、筆者の個人的な見解では、超低コストを指向したLPWAは、5Gと併用され発展していくと考えている。実際、移動通信の標準化団体である3GPPで規格化されたLTE―MやNB―IoTは5Gの実現後も使っていく予定とのことであるし、免許のいらない920メガヘルツ帯等を使用するWi―SUN、LoRa、SIGFOXなどは、低コストを指向するIoTの世界では今後も便利に使われていくと考えている。

【用語解説】
◆MIMO=Multi Input Multi Output 
複数のアンテナを組み合わせてデータ送受信の帯域を広げる無線通信技術。4Gの他、Wi―Fiなどでも使用されている。

◆LPWA=Low Power Wide Area 
IoTに使用する目的で、なるべく消費電力を抑えて遠距離通信を実現する通信方式。「セルラー系」と「非セルラー系」とに分かれており、非セルラー系は通信を行う時に免許は不要だが、セルラー系は無線局免許が必要。

◆LTE―M/NB―IoT
「セルラー系」LPWAの代表的な規格。3GPPで規格化されたもの。

◆Wi―SUN/LoRa/SIGFOX 
「非セルラー系」のLPWAの代表的な規格。日本では920メガヘルツ帯の周波数でのサービスが開始されている。

電気新聞2018年12月10日