◇毎秒1万4千回

 日本国内では東日本大震災が起きた11年、東芝が官民ファンドの産業革新機構と組み、買収したことでも話題を呼んだ。東芝は経営再建の過程で17年にランディス・ギアの株式を売却。東芝傘下から離れた後も、世界のスマートメーター市場で存在感を発揮し続けている。

 ランディス・ギアはスマートメーターの機能を自動検針(スマートメータリング)、グリッドエッジインテリジェンス、スマートインフラストラクチャーの3つに分類する。日本ではなじみが薄い2番目、3番目を含む全機能を具現化するのが、同社が開発した先進メーターの「Revelo(レベロ)」だ。

 レベロの最大の特長は、毎秒1万4千回以上という膨大な回数で電流、電圧、周波数といった電力データを取得する点にある。専門家によると、実際のサービスに利用するかは別として、データ解像度のみで比べた場合、日本の現行スマートメーターの10倍以上の粒度で情報を取得できるという。系統末端で集めた膨大なデータを活用し、多彩なアプリと組み合わせることで、配電網の強靱化、需要家側の節電といった付加価値サービスを生み出すというのが、ランディス・ギアの基本的な発想だ。

 iPhoneが専用のオペレーションシステム(iOS)上で多数のアプリを駆動させるように、レベロには従来のスマートメーターが備える通信機能、計量機能と別に、「考える機能」と称されるオペレーションシステムをモジュール化し、搭載している。アプリを開発するプレーヤーに縛りはなく、ランディス・ギアは開発者向けプラットフォームの運営も手がける。

 米国で同社の取り組みを視察した早稲田大学研究院教授の石井英雄氏(スマート社会技術融合研究機構事務局長)は「アプリ開発を手がける多様なプレーヤーに対し、ランディス・ギアがプラットフォームを提供する。スマホにおけるアップルのようなモデルを志向している」と指摘する。

 電力データが生み出す価値として電力会社などが着目するのが、送配電設備の異常検知だ。

 桁違いの粒度で取得したデータを活用することで、従来のスマートメーターでは見えなかった周波数などの「ゆらぎ」を観測できるようになる。同社によると、複数のメーターから取得した「ゆらぎ」情報を合成することで、変圧器など配電設備に異常が起きる兆候などを、事前に捉えることが可能になるという。

 ◇節電効果も期待

 需要家側に視点を移すとエアコン、電気自動車(EV)など電気機器の稼働状況の「見える化」を推し進め、アプリを介した節電などを促す効果も期待できる。

 需要側機器が配電網に及ぼす負荷を精緻に把握できれば、系統の効率的な形成・運用につながる。ランディス・ギアは高粒度のデータを活用したこれらの取り組みを「グリッドエッジインテリジェンス」と呼び、導入を進める。

 その先に見据えるのはアプリを介して、EV充電器や宅内蓄電池などを制御する「スマートインフラ」の世界だ。米国ではスマート街路灯などから順次展開が進む。社会全体に張り巡らされたメーターが、生活や社会に変化をもたらす日が近づきつつある。

電気新聞2024年9月9日

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