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 これまでエネルギー事業は、需要を前提として供給側の体制をいかに整えるかを問われてきた。エネルギーは直接的に顧客体験を提供することはなく、その「手段」でしかない。

 需要がある場所に必要量を供給するのが当然であった。しかし、脱炭素化の主力と期待される再生可能エネルギーは地域的な偏在性が高く、そうした構図が変わりつつある。

 筆者は、本年2月、ドイツに赴いてエネルギー政策関係者との対話を行ったが、エネルギー価格の高騰や供給不安が企業の投資計画に重大な影響を与えていることを痛感した。逆に、4月に訪れた豪州では、南オーストラリア州首相から「当面は日本に水素を輸出することを目指すが、豊富な鉄鉱石とグリーン水素を強みとして、クリーン鉄鋼業の育成を進めたい」という希望を聞いた。低廉・安定的な脱炭素電源を潤沢に供給しうる国はそれを武器として産業構造の転換、産業誘致を図っている。踏み込んで表現すれば、潤沢な脱炭素エネルギーが入手できるか否かが、社会課題の解決と経済発展の両立に成功するか否かの分水嶺(れい)となりつつある。

 わが国は、太陽光発電に適した広大な平地を有する訳ではなく、モンスーン気候であるため安定した風況にも恵まれない。わが国のGX、DXを再生可能エネルギーのみで支えることは極めて難しい。加えて、生成AI(人工知能)の拡大による電力需要増加のスピードは極めて速く、これに対応できるのは、既存の原子力発電の再稼働のみとなろう。また、2030年代以降もGX、DXが続くのであれば、新増設も含めて原子力発電と向き合う必要がある。

 岸田政権は22年7月にGX実行会議を設立し、その第2回会議において早々に「再エネや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギー」であるとした。その上で、原子力発電の再稼働の迅速化や新増設の可能性にも踏み込んだ。原子力基本法を改正、原子力発電の活用を「国の責務」として明記したが、具体的にその活用を進める政策的措置は今後に委ねられている。