VUCAの中で、A(Ambiguity、曖昧性)とは、曖昧なものを排除するのではなく、包括しながら進むことを意味し、電力業界におけるAとは、業界常識が、「失敗しない」ことにあるため、これは、未知の領域である。電力自由化が始まった電力業界のアナロジーとして、30年前の通信自由化を取り上げるが、イノベーションを起こしたのは、インターネットである。30年で市場規模が2倍以上に成長したのは、新産業創出が主要因で、電話サービスは図1のように、今やNTTグループ収入の18%以下である。

図_NTT_通信自由化_4c 

「失敗を許容する」ネットの思想が電力のデジタル化に有効

 
 インターネットと電話交換網は、設計思想が異なる。集中型の電話交換網は、「失敗しない」(ギャランティード=情報ロスがないように保証された)通信網である。一方、分散型のインターネットは、IP(インターネット・プロトコル=経路制御装置、いわゆるルーターが情報伝達)は「失敗を許容する」(ベストエフォート=情報が輻輳するとロスすることがある)ネットワークである。ただし、インターネットは、IP網が輻輳した場合、端末側にIPの上位レイヤーに相当するTCP(伝送制御プロトコル)が実装され、端末間の情報の応答確認機能によってロス時に再送による情報伝送を実現する。東日本大震災の時、「失敗しない」はずの電話交換網が使えず、「失敗を許容する」インターネットは、ダウンすることなく情報伝達に重要な役割を果たした。こうしたインターネットの耐災害性が実証された設計思想が「電力のデジタル化」と「電力業界の市場成長シナリオ」にとって有効である。

 インターネットは、AS(自律システム)と呼ぶ大規模ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)によって管理されたネットワークの集まりで、AS間で経路情報交換を行うことで全体を制御している。電力網は、FIT終了後にDER(分散型電源)の比率が急拡大することが想定される。前回に述べたように、水力の8%とDERの合計は、2030年に30%、40年に50%とすると、DERは、30年に22%、40年に42%となる。このような比率では、従来のピーク需要予測型電力網ではなく、インターネット技術をフル活用した新たな分散型電力網を構築する必要がある。
 

スマートプラットフォームは電力だけでなくさまざまな基盤に

 
 そこで今後あるべきデジタル電力網の4つの考え方を以下に示す。

 (1)電力網を複数のAS(自律システム)に分けて運用する
 (2)需要家には、スマートメーターを設置し、AS内の各需要家の必要電力量と需要予測値をリアルタイムで把握する
 (3)AS内の系統・需要家には蓄電池を設置する
 (4)AS内コントローラは、需要を把握し、これに応じた供給量をAS内発電所および不足時には外部ASから供給してもらう

 以上の4点は、極めて重要で、AS内発電量で需要を満たせない場合かつAS外部からの供給ができない場合は、AS内の需要抑制を行う。需要家宅ではスマートメーターを中心に宅内端末が相互接続され、これが新たな電力サービス基盤となるIoT/スマートプラットフォームにつながっている。このプラットフォームは図2に示すような3つのレイヤー構造を持つ。同プラットフォームを整備することで、家庭向け、企業向けの多様なサービスの可能性が一気に広がるだろう。

図_3レイヤー構造_4c
 これは、電力需要のピークに対応するデマンドレスポンス(DR)だけではなく、流通、金融、教育、娯楽、宅配など、多くのサービス基盤となるだろう。1985年に約40兆円の情報通信市場は、30年で2.5倍の約100兆円規模に成長を遂げた。電力市場がこれを上回る成長を遂げるか否かは、「電力のデジタル化」にかかっている。

◆VUCA(ブーカ)とは
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの頭文字から取った言葉。

電気新聞2018年11月26日
 

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