据え付けはトレーラーや常設クレーンを使って慎重に行われた

◆水圧鉄管弁の据付け慎重に

 俣野川発電所は鳥取県と岡山県の県境に位置し、背後には名峰の大山がそびえ立つ。30万キロワットの水車発電機を4台備え、最大529メートルの有効落差を使って年間約4億7千万キロワット時を発電している。

 近年は激増する太陽光発電の余剰電力を使って下池から上池へ水を吸い上げ、太陽光発電の出力が落ちる時間帯に下池へ流して発電するなど揚水式の運用方法は変わってきた。俣野川発電所の起動回数も2022年度は10年前の3倍超と大幅に増加。運開から37年が経過したこともあり、弁の動作不良や水漏れが起きてきた。

 安定運転を維持するため、中国電力は大規模改修工事を計画。変圧器ケーブルや主回路開閉装置に加え、2台ある水圧鉄管弁の取り換え工事などに取り組むことにした。

 水圧鉄管弁の役割は、上池から導水路と水圧鉄管を通って水車発電機へ向かう水流を制御するもの。水圧鉄管は2ルートある。1台の弁を閉じて点検整備しても、もう片方を開放しておけば水を流して発電できるのが特長だ。

 1台目は4月に搬入を終え、2台目は5月10日に据え付け場所へ運搬した。搬入口となるトンネル手前で大型クレーンが弁を吊り上げ、日本通運の特殊車両に積載。同社の社員が無線操縦機を両手で操作しながら水圧鉄管弁とトンネルの壁が接触しないよう慎重にトレーラーを動かした。通路の状況をしっかり目視確認できるよう車両の前方に回り込んでから作業に入った。

 ◇常設クレーンで

 時速3キロメートルでゆっくりと運び込み、据え付け場所に到着。今後は常設クレーンで水圧鉄管弁を持ち上げて設置する。常設クレーンを使用するのは新設工事以来、37年ぶりという。

 電力需要の高まる夏前に完了させるため、中国電力は工期短縮に向けた様々な工夫を施した。新設時にはトンネル内部で弁を組み立てたが、今回は栗本鐵工所が製作した完成品を現場に運搬して据え付ける工法に変更。工期を1カ月ほど短縮できた。

 トンネルの出入り口付近にある資機材置き場も拡張した。山の下り斜面に鉄骨を組み上げ、その上に鉄板を敷き詰めることで作業スペースを約2倍に広げたのだ。従来の広さなら、既存設備を撤去し終えるまで取り換え用設備の組み立てはできなかった。

 拡張したことで撤去作業と組み立て作業を同時に進められるようになり3カ月ほどの工期短縮につなげた。これらの効率化策に加え様々な工夫を施したことで12カ月を見込んでいた工期を5カ月に短縮できる見込みだ。

 ◇コスト減も実現

 水圧鉄管弁の構造を変更してコスト削減にもつなげた。従来型は球体の弁を駆動して上池からの水を流したり止めたりしていた。新型は「バタフライ弁」を採用。円盤型の弁が回転して水流を制御する仕組みで、従来型と比べて6トンほど軽くなり費用も抑えられた。

 今回の工事を担当する中国電力東部水力センター米子土木課の清重直也課長は、俣野川発電所の運転を再開することで「今後も地域のエネルギー地産地消に貢献したい」と強調。夏までに完了できるよう「安全第一で工事を進めたい」と意気込みを見せていた。

電気新聞2024年5月14日