ニュースケール・パワー社の原子炉図
ニュースケール・パワー社の原子炉図

 小型モジュール炉(SMR)が米国の原子力災害対策を変える可能性がある。米国は原子炉から半径約16キロメートルを住民避難の範囲と定めているが、原子力規制委員会(NRC)事務局は今夏、SMRの安全性を勘案した距離範囲を設定することは合理的という見解を示した。今後の詳細評価で距離範囲がSMRの敷地内に収まる場合は、敷地外の避難計画の策定は不要だとテネシー州の電力事業者が提案していた。事業者側は、SMRの安全審査申請時に詳細評価の結果を提出する見通しだ。

 SMRは小出力の原子炉を複数組み合わせた構成だ。使用する核燃料物質が大型原子炉より少ないほか、ポンプやモーターといった動力を使わず、万が一の事故時も自然冷却が可能で安全性が高いとされる。負荷追従能力があり、調整力として使える可能性もある。

 米国ではニュースケール・パワーが出力5万キロワットの原子炉を12基連結した60万キロワットタイプの実用化を目指し、NRCの安全審査に入っている。また、電力事業者のテネシー峡谷開発公社(TVA)が同州で建設を計画し、安全審査の前に行う「早期立地許可審査」を受けている。同審査は、安全性に影響しない設備の工事許可を得るためのものだ。

 SMRの災害対策の合理化はTVAが2016年の同審査の申請時に提案しており、NRC事務局が今夏に公開した報告の中で合理的と判断されていたことが分かった。だが、審査は途上であり、正式にNRCの許可を受けたわけではない。

 TVAの早期立地許可審査は19年以降に完了する見込みだが、その後も複数の安全審査プロセスが控え、先は長い。ただ、仮にSMRの安全性を勘案した避難計画の立案に道が開かれれば、普及には追い風となる。原子力政策に詳しい海外電力調査会の滝沢靖史上席研究員は、「より需要地に近い場所で立地しやすくなり、脱炭素化の動きにも十分貢献できる」と指摘している。

電気新聞2018年10月31日