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 デジタル技術の急速な進歩は、電気事業をはじめとしたエネルギー市場に大きな変化をもたらそうとしています。そうした中、電気事業をめぐるデジタル化関連の情報をコンパクトにまとめた書籍『まるわかり電力デジタル革命 キーワード250』が、8月に本紙から発刊されました。デジタル技術でエネルギービジネスの姿はどう変わるのか。編著者の西村陽氏(関西電力部長)、巽直樹氏(KPMGコンサルティングディレクター)に話を聞きました。前・後編で掲載します。
 

電気事業のビジネスモデルを大きく揺さぶる可能性

 

西村 陽氏
西村 陽氏

――8月に新刊書籍「まるわかり電力デジタル革命 キーワード250」を上梓されました。本書を執筆された動機、経緯を教えてください。

西村 本書でいう「デジタル」は、これまで電気事業で使われてきたデジタル化の文脈と少し違います。例えば、再生可能エネルギーをはじめとした需要側資源がIoT(モノのインターネット)と結びつくことで、既存のビジネスモデルが大きく揺さぶられる可能性があります。タイトルの「電力デジタル革命」には、デジタル技術によって電力経営も変わっていくとの意味が込められています。

 本書の前半部分でもビジネスモデルの変革についていくつか触れています。第7章の「フィンテック」のところでは、金融の世界で起きた変化を例示することで、デジタル化によって電気事業でどのようなことが起こり得るのか、何がしかの示唆が得られないかとの意図で執筆しました。

巽 直樹氏
巽 直樹氏

 デジタル技術と聞くと、成長分野への活用や、既存事業のコスト削減・効率化に寄与するといったことを想起しがちですが、実際の導入には開発費などそれなりのコストがかかるので、そう単純ではありません。デジタル技術を新たな利益の源泉として活用できている産業は、一部の巨大IT企業を除いて多くはないと思います。

――これまでの電気事業の変化とは根本的に異なる変革が迫っていると。

西村 デジタル化では収集・解析したデータを活用して業務のロボット化やAI化が進んだり、需要側資源を調整しながら動かしたりと、さまざまな変革が引き起こされます。

 いま取り組まれているデジタル化のほとんどはまだ見ぬ市場ですが、この本で描きたかったのは、遠い未来のデジタル化の話ではありません。既に始まっている、あるいは目の前に迫ったデジタル化の動きを解説したものです。解説をじっくり読み込んでから個別の用語を確認してもらえれば、デジタル化のインパクトが立体的に理解いただけると思います。
 

レジリエンスにどう活用するのか? 革新的新サービスは誕生するのか?

 

西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)
西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)

――デジタル化の進展で、電気事業の仕組みやエネルギーの安定供給にどのような変化が予想されるのでしょうか。

西村 送配電事業については、現在政策当局でも北海道や関西で起きた大規模な災害を受けて、レジリエンス(回復力・強靭性)の論点、送配電分野でのイノベーションの可能性が注目されています。いずれもデジタル技術の活用が深く関わってくるテーマです。

 例えば配電レベルのレジリエンスとは、簡単に言えばどんな状況でも電気の供給を止めずに、需要と供給をバランスさせることです。これを実現するには、デジタル技術を使った需要側資源の活用も重要な選択肢となります。再生可能エネルギーの大量導入と送配電ネットワークの信頼性の両立についても、デジタル技術の活用が不可欠な要素です。

 小売り分野を考えると、電力市場の場合は国ごと、地域ごとにローカルマーケットができあがって、それぞれに異なります。金融のように国境を越えたグローバルな取引や、合従連衡が起きる可能性は低いでしょう。ただし、デジタル技術を活用した画期的なサービスが登場して、ある国、地域における市場に大きな変化をもたらす可能性までは否定できません。

(本文中、敬称略)
19日掲載の<後編>に続きます