大規模停電の本格的な検証が始まった(9月21日に開かれた広域機関の委員会初会合)
大規模停電の本格的な検証が始まった(9月21日に開かれた広域機関の委員会初会合)

 
 9月6日午前3時7分に起きた北海道胆振東部地震は、日本の電力会社が初めて経験するエリア全域の大規模停電(ブラックアウト)を引き起こした。電力広域的運営推進機関(広域機関)の検証で公開されたデータを基に有識者らに取材し、大規模停電に至った経緯と背景、そこから得られる教訓を探った。
 

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 大規模停電は石炭火力の苫東厚真発電所1、2、4号機(定格出力計165万キロワット)が脱落したのが原因。地震直後、報道で繰り返し伝えられ、こう記憶する人も多いのではないだろうか――。

 この説明は間違いではないが、今回、北海道で起きたことをきちんと理解するには別の要素が必要になる。それは地震直後に起きた道東の送電線3ルートの故障と、それに伴う水力発電所(約43万キロワット)の脱落だ。
 
 ◇一時は需給回復
 
 広域機関の分析によると、地震直後の3時8分に苫東厚真2、4号機(当時の出力計116万キロワット)が脱落した後、北海道電力は負荷遮断を含むあらゆる手段を講じ、需給バランスを一時取り戻した。ただ、直後の停止を免れた同1号機(定格35万キロワット)が故障で出力を落としていき、最終的に脱落。その影響に耐えられず、3時25分、系統崩壊に至った。

 実は、このとき水力が生きていれば結果は変わったかもしれない。政府関係者は「脱落した水力の合計出力は苫東厚真1を上回る。動いていれば(苫東厚真1の影響を補い)ブラックアウトを防げたはず。送電線事故は不運としか言いようがない」と述懐する。

 公表データからみえてくるのは、北海道電力の系統が少なくとも地震直後の苫東厚真2基の脱落に耐えたという事実。そして送電線事故がなければ、3基脱落という異常事態すら乗り切れた可能性があるということだ。

 広域機関は検証を進めているが、備えを固め、対策を総動員した北海道電力の対応に批判は出ていない。原子力規制委員会の審査長期化に伴い、安価な電力を大量に生む原子力の泊発電所抜きで、不自由な需給運用を余儀なくされる中、少なくとも苫東厚真2基の脱落に耐える設備を維持していたことはあらためて評価されるべきだろう。

 一方、それでも起きてしまったことを防ぐ道はなかったか。今回の事例に学び、次に生かす議論が本格化しようとしている。

 大規模停電が突き付けた課題の一つは、供給信頼度と費用の兼ね合いだ。今回起きたのは火力3基の脱落と送電線3ルートの故障が重なる「超稀頻度事象」とされる。お金をかければ対策可能だが電気代に跳ね返る。競争環境下で事業者の自助努力にも限界がある。
 
 ◇再生エネに限界
 
 出力変動型再生可能エネルギーの限界もあらわになった。太陽光は夜間で発電していなかったが、道内に30万キロワット程度ある風力は地震直後の周波数低下で早々に脱落した。

 風力や太陽光は周波数や電圧の変動に弱く、すぐ解列してしまう。火力などの同期発電機と比べた際の違いであり弱点だ。この弱点が改善されなければ、個々の設備がどれだけ分散立地しようと、周波数などの変動が既定値を超えた時点で全設備が一斉に脱落してしまう。

 それは1カ所の大規模電源が脱落するリスクとなんら変わらない。地震後、大手メディアが「苫東厚真への一極集中」を問題視し、再生可能エネなど分散型電源の拡大を訴えたが、本質的な解決策になるとは言いがたい理由がここにある。

 現実の危機に際し、北海道の需給バランスを支えた主役の一人は、本州と北海道を直流で結ぶ容量60万キロワットの北本連系設備だ。苫東厚真2、4号機の脱落後、最終局面まで電気を送り続けた。

 地震前から稼働していた知内発電所は、北海道電力が道南の電圧を維持する必要不可欠な電源(マストラン電源)として運用していた。安定供給の観点から燃料費が高い石油火力をあえて使ったことが、北本連系設備の円滑な運用を導いた点は見逃せない。

 北海道電力は連系設備をさらに30万キロワット増強する工事も進めていた。運開予定は2018年度末。その隙間を突くように地震が襲ったが、既存設備が役割を果たした。

 残る主役は道内にバランスよく配置された他の発電所だ。もともと北海道電力の電源構成は泊を主軸とし、海外炭火力の苫東厚真と内陸の国内炭火力、水力、石油火力などが分散立地している。

 綱渡りの需給を支えたのは、それら内陸の火力と送電線事故での脱落を免れた水力、石油火力だ。広域機関が公表した発電機出力データには、最後まで持てる力を振り絞る、個々の発電機の「奮闘」が記録されている。

電気新聞2018年10月3日

「北海道ブラックアウト 第1部・考察」は、現在、電気新聞本紙で連載中です。電気新聞購読申し込みはこちらから。