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 デジタル技術の革新や需要側資源(DER)活用の進展は、電気事業者、つまり小売り事業者や発電事業者、さらにはネットワーク事業者に効率化や付加価値創造のチャンスを与える。ただし、欧米既存電気事業が活用しているデータプラットフォームによる設備最適化、顧客分析等の技術をそのまま日本国内に持ち込もうとすればローカライズの手間とコストが必要であり、自力で応用する場合も既存の事業運営とどう折り合わせる(ハーモナイズする)かが問われることになる。
 

欧米企業の提案を分析する

 

西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)
西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)

 ここまでの「テクノロジー&トレンド」の連載において、既存の電気事業運営の中でのデジタル技術の活用事例が紹介された。日本の事例としては、関西電力が取り組む人工衛星気候データを使った太陽光発電予測の精緻化と火力効率運用をはじめ、火力発電プラントの遠隔監視・人工知能(AI)利用による設備保全高度化、スマートデータの見える化プラットフォームベースの顧客サービス向上といった取り組みが、海外事例としては、GEが取り組む米国エクセロン社における送配電設備のデータ蓄積高度分析による設備データ管理、最適化や停電情報分析などが紹介された。

 既存の電気事業向けデジタル技術サービスとして、欧米企業からよく提案される3つの分野を図にまとめた。ドローンによる送配電設備監視とデータ蓄積・管理あるいはデータプラットフォーム提供や、スマートメーターデータのディスアグリゲーション(用途分解)による省エネルギーコンサルティング、そして、厳密には既存事業とは言えないものの、ダックカーブ対策としてのDER機器活用によるVPP(仮想発電所)分野の国内電気事業への提案といったものになる。

T&T 電力デジタル革命 4回目

 また欧米企業だけでなく、以前から我が国電気事業を支えてきた重電機器メーカー、ITソリューション企業からも予知保全(プレディクティブ・メンテナンス)、設備データのリプレースと分析高度化が、また、AI・ロボティクスの新進企業からは電気・ガスの契約メニュー多様化や働き方改革に対応したお客さま対応や複雑化するベース系業務システムの一部代替もアイデアとして持ち込まれている。

 

欧米とは異なる基礎条件

 
 電気事業は膨大な設備データ・顧客データを持ち、様々な環境変化の中で運営効率を最大限上げていくためには、当然最先端の電力デジタル技術を生かしていくことは不可欠であり、そのことは電気事業グループ全体の競争力とも直結していく。欧州・米国の伝統的電気事業者がこの分野での投資や技術活用が進んでいる理由の一つはこれである。

 しかしながら、ここで踏まえなければならないのは、我が国と欧州・米国ではそもそも電気事業運営や効率化の基礎条件が大きく違う、ということである。

 表で確認してみよう。まず送電・配電ネットワークについては、日本の電気事業の方がはるかに設備のデータ管理が進んでおり、配電自動化も世界に類をないほど高いレベルなので、データプラットフォームをあらためて構築したり移し替えたりするメリットは比較的小さい。また需給運用上、DERを使った新技術が不可欠になる再生可能エネルギー(風力・太陽光)の普及量は欧州や米国の一部州に比べて小さく、だからこそVPPのような調整力実証では、まず需給制御能力の確認・革新レベルから積み上げているとも言える。

電力デジタル革命 第4回
 さらに小売りの顧客エンゲージメントやマーケティングの多様化については、日本はまだ個人情報の活用に制限が多く、エネルギー企業の家庭向け商品もあくまで電気・ガス中心であるため、英国やテキサスとは状況が違う。

 電力デジタル技術で既存事業を革新し、ライバルに差を付けることは重要だし、そのために国内外の新進技術に対して常にアンテナを高くすべきだが、その鍵は実は自社の既存の仕組みとの調和(ハーモナイゼーション)にある。自社を熟知するものだけが革新できるという、経営学では当たり前のことがここでも分かる。

電気新聞2018年7月9日