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西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)
西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)

 電気事業にとって、電力デジタル技術や需要側資源(DER)によって今後売り上げ・利益の減少が生じると思われるならば、逆にそれらを新規事業収入に利用しようと考えるのは自然なことである。しかしながら、主に4つに分類できるデジタル新ビジネスのうち、家庭用向け、非家庭向け、データ分析・IoT(モノのインターネット)、電気自動車(EV)活用といった領域によって、それぞれ機器価格、市場環境、制度や法といった成功へのハードルがあり、実際に収益を生むには一定時間を要する上、リスクも織り込む必要がある。
 

デジタル技術には負の影響も。では収入増は可能か?

 
 デジタル技術の革新やDER利用の進展は、一定の確率で電気事業収益にマイナスインパクトを与える。それは販売量の減少、今までの主な収入源だった電力量の価値自体の減衰、電気供給業のライバルの増加(場合によっては一般家庭の参入)など、たくさんの要因によるものだが、前回解説したように、その多寡は予測困難だとして、それらの技術革新やコスト革新を利用して、電気事業の収入を増やすことは可能なのだろうか。

 デジタル分野やDER分野のイノベーションの実現とビジネスチャンスには正の相関がある。例えば蓄電池や電気自動車の低コスト化や性能向上が実現すれば、それらの販売、リース、シェアビジネスなどのビジネスチャンスは大きくなる。その点で、これらの事業化にチャレンジすることは、ビジネス・ポートフォリオとしては理屈に合っている。

 しかしながら、デジタル・DER活用のビジネスをあり得るパターンに分けてみていくと、現時点では、それぞれが「もうかるビジネス」になるために、機器価格・市場環境・制度の面で「越えられないハードル」があることも事実である。

T&T 電力デジタル革命 3回目

 

短期的には成功条件そろわず

 
 図を順に見ていくと、まず領域Aの「家庭用DER活用・P2Pサービス」、すなわち太陽光や蓄電池を使った電気や環境価値の売買に関わるビジネスでは、それぞれの機器の価格革新に加えて、環境価値の売買が可能な計量法などの制度改善がハードルとなる。現状の計量法では、いわゆる卒FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)以外の環境価値を持つ再生可能エネルギーを計量法に従って売買するには、自己負担で検定済み計量器を設置し、データを送付・蓄積して精算する必要があり、コスト採算的には極めて厳しくなる。加えてブロックチェーン取引のような安価な決済手法の確立もポイントとなろう。

 領域Bの「業務用産業用DER活用等サービス」、つまり領域Aの非家庭用版にピークカット蓄電池やデータ解析によるエネマネサービスを加えたものは、現在でも行われており、成長が期待されるが、これも現在の電池価格では採算は厳しい上、ピークカットメリットが市場で保証される容量市場の発足と有効化(実際は2030年近くとなろう)も一つの条件となる。

 また、領域Cの「家庭用データ活用・IoT系サービス」は、もともと米国の各州で「エナジー・エフィシェンシー」(エネルギー利用効率化)政策として、託送費用の中から家庭用の需要分析・省エネコンサルに全額補助が割り当てられたのが起源であり、規制以外に我が国でどのような価値が見いだせるかどうかは未知数である。

 さらに領域Dの「EV・シェアリング系サービス」は蓄電池の機能革新と価格、走行距離がハードルであり、現時点での収益事業化は相当な工夫がなければ難しいのは前回紹介したとおりである。

 結論として、電力デジタル・DER分野は短期的ビジネスとして成功する条件はまだそろっていない。その上で現在何を準備すべきかについては次週以降順に明らかにしていきたい。

電気新聞2018年7月2日