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 電力デジタル技術や太陽光発電、蓄電池をはじめとするDER(需要側資源)の電気事業収益へのインパクトやリスクは、技術革新と収益影響両方の不確実性があまりに大きいため過大なイノベーション期待や、逆に楽観的な見通しに基づく見積もりはあまり意味がない。必要なのはどのような革新要素がどのような経路でインパクトを与えるのかを整理し、自社事業への生かし方を考えることであり、ここでは電気自動車(EV)を取り上げてイノベーションの予測の在り方と、ビジネス化のあるべき発想について考えたい。
 

過去の外的ショックとは異なり、長期かつ正確な予測は困難

 

西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)
西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)

 電気事業経営が、これから数十年にわたる電力デジタル技術や太陽光発電、蓄電池、EVを含むDERの革新からどのような影響を受けるのかについては事業者として当然予測し、自社の計画に取り入れたいところである。我が国電気事業では過去、1970年代の石油ショック、90年代のバブル崩壊の需要減速の際にそうした手法が採られ、事業計画が修正されてきた。

 しかしながらここで確認しておかなければならないのは、過去の燃料価格の変動や景気の長期停滞といった外的ショックと比べて、電力デジタル技術やDERの革新の影響はかなりの長期にわたり、かつ正確に予測することは極めて困難だということである。これらの中で一番実績があり、今後も普及が期待される家庭用太陽光発電でさえ、我が国での予測には大きな幅がある。図1で太陽光発電の現状と見通しを整理しているが、一般的に想像されているほど日本の太陽光発電が爆発的に普及するわけではないことが分かる。

図1_普及予測_4c
 

EVには3つの壁。将来へのオプションとして検討する

 
 それでは、こうした未知で不確実性の大きいイノベーションに対して、どのように対応していけばいいのだろうか。ここでは最も不確実性が大きな技術の一つであるEVを例として考えてみよう。

 EVは米国の一部の州と欧州諸国で高い普及ビジョンが掲げられている一方、我が国のロードマップでは2030年でプラグインハイブリッド車(PHEV)と合わせて新車販売の30%と、見通しのバラつきが比較的大きな商品である。完成車メーカーをはじめとする関係者にヒアリングしてみると、普及に向けたネックは、(1)車載蓄電池性能(耐久性、重量当たりの能力)(2)車体価格(3)一充電での航続距離――であり、これら3つは相互に強く関連し合っている(図2)。すなわちイノベーションの鍵を握るのは(よほどの巨額な補助策が継続されない限りは)、固体電解質をはじめとする車載蓄電池の材料革新ということになる。

図2_壁とヒント_4c
 
 かといって、電気事業者のデジタル分野のビジネスからEVを最初から除外していいわけではない。EVの可能性や二酸化炭素(CO2)排出削減ポテンシャルに社会やユーザーの興味が集まっていることは事実であり、将来へのオプションとして、この分野でのビジネスの入り口やアライアンスを探すことには確実に意味がある。
 

はっきりしているボトルネックはビジネスの入り口にも

 
 こうしたケース、すなわちある財の大幅普及拡大には壁がある一方、そのボトルネックがはっきりしている場合には、そのボトルネックをむしろビジネスの入り口にすることが考えられる。(1)の電池性能の劣化リスクは、保有用乗用車として欠点が大きいことを意味するが、逆にカーシェアやレンタカーには可能性があることになる。(2)の車体価格も、高くなる原因は電池価格なので、それは蓄電池リースやリプレースした中古電池を使ったビジネス化のヒントになり得る。

 (3)の航続距離は、確かにクルマとして致命的だが、距離やコースの決まっている業務用車など、用途を限定してそこからビジネス化することには可能性があることを示している。

 すなわち、デジタル技術分野で大事なのは正確に予測することではなく、イノベーションの構造を理解し、現時点でどこに可能性があるかを論理的に検討することなのである。

電気新聞2018年6月25日